オリジナル小説

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「覇王様!」



武器を持った市民がキロを取り押さえようとした


覇王「控えい!!」



「はっ」
「はっ」



キロ「・・・・」
覇王は落ち着いて椅子に座りなおした。
キロは2,3歩退いた。



覇王「すっかりお主の存在を忘れておったわ」
キロ「・・・・うるさい」


覇王「白い剣・・・唯一悪魔をたおせる剣だ。・・・とんだ伏兵がいたものだ。まさか貴様のようなこわっぱが白い剣の所有者とは」


覇王「しかし、解せぬ、あのとき鎧の小僧に声を掛けなければ、一撃で我が心臓を貫いておったかもしれぬのに、奴とは親友であるのか?」
キロ「・・・・今日会ったばかりだ。」
覇王「おお、そのような他人を助けるとは、なおのこと分からぬ。」




キロは内心気が付いていたが、その気持ちを噛み殺した。
英雄気取りで取り返しがつかない失敗をして、少しの褒美でそこから無様に逃げ出して殺される・・・
まるでここまでのキロ自身を見ているようで放っておけなかったからだった。




キロ「・・・・たとえ初対面の人であっても、親切にしておくもんだ。そうすれば巡り巡って自分の利益になるかもしれない」



覇王「ふ、はははははははははははっはははは!!!!!」
覇王の笑う声が怒号のように響いた。



覇王「小さい、小さすぎる、まさに従者や奴隷のような小さい思考だ。」
キロ「・・・・」
覇王「この世に生を受け、男に生まれたからには、力と地位と名誉を求め、命をかけるものだ。そうだろう皆の衆」



「そうだ!!!」
「そうだ!!!」
「覇王様!!」
「覇王様!!」
「覇王様!!」



覇王「・・・・我に一切の武器は効かぬ。」
覇王は落ちているモダンの槍を自分の胸に刺してみせた。
覇王「何も痛みを感じぬ、・・・だが武器が体を刺さると感じた瞬間、体が自然と反応してしまう、先ほどお前に斬られる瞬間もそうだ。」

覇王「頭では忘れてしまっても体は覚えておるのだ、まだ、人間であり、毎日のように戦場を駆け巡っていた記憶を・・・」



キロ「?」



覇王「ふふふふ、よし、決闘をおこなおうぞ。お前を殺して、白い剣をいただこう。そして、強者が現れるたびに白い剣を渡そう。やはりフェアではないからな。何人もの戦士の屍を踏みしめ我が最強の覇王であることをここに証明しよう」

覇王「我が真の覇王であるぞ!!!!」



「覇王様!!」
「覇王様!!」
「覇王様!!」



大きな広場の真ん中でキロと覇王は対峙する。
覇王は大きな斧を軽々とかついで見せる。なんという怪力だろう。

「さて、先ほどは先手を譲ったからな。今度はこちらからいかせてもらうぞ。」
「来い」


「うおおおおおらあああああ」
覇王は叫びながら斧を振り上げる。
キロは受けることをあきらめて斧を避けた。そして素早く後ろに回り込んで浅く斬りつけ、距離をとる。

「すばしっこさで勝負するか・・・」
「あんたに力じゃかなわない。このままじりじり削らせてもらう。」



「ふふふ、なかなかに自分の利点をわかっておるじゃないか。読みも動きもいい。どうだ、ワシの部下にならんか。そなたならそれなりの地位を与えよう。財宝も女も思いのままだ。ワシと一緒に覇道を極めようではないか。」


なるほどどうしてロズワードの市民が熱狂的に覇王に従っているのか少しわかる気がした。この悪魔は本気で言っている。自分の欲望にまっすぐでどこか着いて行きたくなる魅力がある。いっそ白い剣なんか捨ててしまってこの悪魔に従ってしまうのもアリかもしれない。




「嬉しい誘いだ。・・・でも、駄目だ。」
その選択を・・・もう一度やり直せるならグラナ火山の里でやり直したかった。




「残念だ。だが、名前ぐらいは残してやろうぞ。」
(はは、別に必要ないだろ・・・俺は最低な人間だぜ?)


覇王は空に手をかざす。黒い炎の塊が広場に降り注ぐ。燃える物もないのに黒い炎は消えずにその場で燃え盛り続けた。

「ふふ、これでちょこまか動けまい。」


「うらああああ」
キロは避けたが、炎がキロの腕と足を燃やす。
「あつっ」
慌てて消したが、ジンジンと痛む。

そこからは、防戦一方だった。



うずくまっていたモダンは顔を上げた。キロと覇王が戦っている様子が見えた。
俺を助けてくれたあいつが戦っている。旗色も悪そうだ。助けに行かなきゃ・・・



モダン(今、誰も俺のことを見ていない。逃げるなら今だ。財宝もまだ懐に入っている・・・遊んで暮らせるぞ。)

モダンは自分が考えていることが信じられなかった。
情けない自分のために勝機を逃した恩人を見捨てる?
曲がりなりにもロズワード自治軍に入って英雄をめざした自分がか?


モダン(ちくしょう・・・俺は・・・弱いな・・・)
涙と鼻水があふれて止まらなかった。



炎に囲まれて身動きがとれない。
キロは満身創痍だった。
(・・・ヤバい。意識がもうろうとしてきた。・・・このおっさん戦術ってものをよくわかってる。どこかにスキでもない限り勝機がない・・・)


カシャンカシャン
この金属音は鎧のかすれる音・・・
モダン「うああああああああああああああなめんじゃねーぞ。俺は俺はあああああ」
モダンが群衆の輪を抜け出して覇王に突進する。


覇王は斧を持っていない方の手でモダンを突き飛ばした。
覇王「はん、小物が決闘を汚しおって・・・貴様はあとで処刑する。」



ザシュ



キロが白い剣で側面から覇王の鎧の隙間を貫く。
キロの服はボロボロに焼け焦げていた。
覇王「・・・・ははは、捨て身の突進をしてきたのは二名だったということか・・・お見事」


黒い煙が覇王から大量に漏れ出してキロの白い剣に吸収されていく。
略奪する悪魔は雲のようになって空に飛んでいった。



キロ「はあ、はあ、」
全身に火傷を負ってキロは満身創痍だった。

モダン「すげぇ・・・」

固唾をのんで見守っていた市民がキロに駆け寄り
キロの後頭部を鈍器で殴りつけた。
キロはその場に崩れ落ちた。


市民「よくも、よくも、覇王様を!!!」


モダン「・・・・おい、何をやってるんだよ・・・」


「よし、こいつを殺せば俺が覇王になれるんじゃないか?」
「馬鹿野郎、覇王様がいなかったら、これからどうするんだよ!!!」
「この財宝を持って逃げた方が・・・」
「どうやって包囲網を突破するんだ」


広場の市民たちは混乱していた。


ひゅーーーパン!!


広場から、花火と狼煙が上がる。
「これって、ロズワード軍が来る合図なんじゃ???」
「ロズワード軍のスパイが紛れ込んでたってことかよ」
「逃げろ」

その場にいた市民はクモの子を散らすように逃げ出した。




使い魔「キロさん、キロさん、大丈夫ですか」
キロ「うーん、頭が痛い。」


天使が道を示してくれたおかげで
なんとかロズワード軍の包囲網を抜け出して人気のない道に出た。




天使「お疲れ様、大丈夫?」




キロ「・・・ああ、大丈夫・・・です。」
天使の三白眼が恐ろしくて、若干敬語になってしまうのが情けない。


「ああ、大丈夫だから、アーシェ」


天使はある人物からの言葉を思い出していた。
天使「・・・・・・・」
キロ「???」


キロ(しかし、ねぎらいの言葉を聞けるなんて・・・)
キロがもう一度天使の方をみるとふっとまた消えてしまっていた。


使い魔「まさか、ご主人様からねぎらいの言葉が出てくるなんて・・・」
キロ(あ、思考がかぶった)