オリジナル小説

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キロの過去編



キロは自分の為に生きる。
兵士長は国のために生きる。



カルデラの国、100年前のデシベル王の時代に最盛期を迎え、今は衰退の一途をたどる国である。
市民は疲弊し、ぽつぽつと貧民街が点在していた。


・・・・


大臣「あの兵士の数を減らす話はどうなったのかね」
兵士長「しかし、今なお、治安はますます悪化しております、兵士の数が足りない状況でありまして、ここからさらに減らすというのは」
大臣「我が国も財政難であるからして、やむをえんことなのだ、わかってくれ」



・・・・



カルデラの城の警備兵士になったとき

上司としてキロを指導したのが現在の兵士長である。

かなりの老年であったが

出世できず、いまだに現場のリーダーであったことは

少なからず周囲から憐れまれていた。



兵士長「・・というわけで、アーシェ卿という人物は女性でありながら、一人の兵士としてあり続けた気高い人物なのだよ・・」

兵士長の話すアーシェは、伝承に伝わる尾ひれのついた人物像であったので

キロがアーシェに初めて出会ったとき、そうだと疑いもしなかったのは無理もなかった。



キロ「はい、そうですね・・」

キロは兵士長の長話に寝ないようにするので精いっぱいであった。





キロは手際の悪い出来の悪い兵士であった。


彼はよく城の城壁にもたれかかっている物売りに話しかけていた。
キロ「俺は思うんだ。みんなからどんどんおいていかれているんじゃないかって」

物売り「はは、兄ちゃん、それは、焦り過ぎだって、
カルデラの兵士なんてこの国の1,2位を争う安定した職じゃないか、
とんでもない失敗をしない限り、首にされないんだからじっくりやりなって」



キロ「そうですかね」

物売り「あっしの方が大変さ、店を持たず転々と、いつかどこかに安住したいもんだねぇ」

キロ「・・・なんかすいません」



・・・・



キロ「どうしたら、出世できるだろ・・・」

メガロ「そりゃ、ベルク盗賊団を壊滅することじゃないか」

ベルク盗賊団は最近、出没する盗賊団であった。紳士月没に現れて街道筋の御車から荷物をかっさらっていっていた。
城の荷物が狙われることも多く。カルデラの国では頭を悩ませる課題のひとつだった。

メガロ「うちの兵士も何人も怪我させられてる。リーダーのベルクは2mをこえる大男で腕も立つらしいぜ」

ミリア「こら、キロもメガロもそんな危ないことしちゃだめよ。盗賊が来たら逃げればいいのさ、無理に命や体を粗末にすることない」

メガロ「おいおい、何のための兵士だよ」

キロ(盗賊団はちょっと無理かな・・)



・・・・



国の祭壇から黒い影が立ち込めるという噂が流れた。
13匹の悪魔の封印が解かれたのはその日だった。
その日から、カルデラには不幸な出来事ばかりが続く。


そのころから、町では銀髪の少女が目撃されるようになった。
メガロ「俺は、見たんだって、いや、この世のものとは思えないほど美人だった」
ミリア「・・・・」
ミリアは不機嫌そうにメガロの耳を引っ張った。
メガロ「いてて」


それから、数日後、キロはある重要任務を依頼される。




兵士長「これは大事な極秘任務だ。よく聞いておくれ。
北の山の金属加工職人の家から荷物を預かる配達人の護衛について欲しい。
大層高価な品だからくれぐれも慎重にな」


・・・・


キロ「極秘任務だってさ、こんな大きな仕事を任されたのは初めてだ。」

物売り「よかったじゃないか、やはりカルデラの国は安泰なんだよ。俺たちとは住む世界が違うのかもな」

キロ「おじさん・・・?」

物売り「いや、気にしないでくれ、さあ、頑張っていってきな」



・・・・




仕事としてはいたって簡単だった。


配達人の男の後をついていくだけである。
おそらく、この運び出す荷物はさぞかし高級なものなのだろう・・・
厳重に何重もの布にくるまれて、カギ付きの箱に入れられている。



帰り道、人通りの少ない山道に差し掛かった時、いきなり5名程度の覆面の男たちに取り囲まれた。
男たちの中でひときわ背の高い男が話し始めた。


男「俺は、盗賊団のベルクってもんだが、
その荷の中身はさぞかし高級なものらしいじゃねぇか、おとなしく荷物をおいて逃げれば命だけは助けてやるぜ?」


配達人「ひいい、お助けをーーー」
配達人は背負った荷物を手放して逃げて行った。
キロは判断がつかずその場に立ち尽くしていた。
キロ(えええ、ちょっと・・)


ベルク「お前はにげねぇのか?勇気があるじゃねぇか」


キロは震えながら声を出した。
キロ「やめた方がいい、カルデラの国の住人ならば、国の荷物に手を出すべきじゃない」


ベルク「ああ?国民から税金しか絞りとらねぇ国家がなにほざいてんだ?
俺らは自分が生きていくために盗まなくちゃならないんだよ。それともお前は今ここで国のためとやらで死ぬのか?」



国のために死ぬ?
せっかく兵士長に任せてもらった大きな仕事・・
ここで失敗したら首にされるかもしれない・・



キロ「ダメだ。・・・ここで失敗したら首にされるかもしれない・・・自分のためにここは譲れない・・・」


・・・・



兵士長「おお、キロ=エバンス遅かったじゃないか。配達人は一緒じゃないのか?」
キロ「ええ、近くまで来たら、あとはお願いしますと」

兵士長「かすり傷が多数あるがこれは?」
キロ「木の枝にひっかけてしまって、あははは」



キロは、ベルクに切りつけて怯んだのを見て荷物を担いで逃げたのだった。
キロは、そのことをすぐに物売りに報告に行ったが、彼はどこにも姿が見えなかった。
極秘任務の情報を仕入れた彼が何をしたのか?
キロは全くそのことに気が付いていなかった。


数日後、ベルクは肩の傷を医者に見せる際に捕縛される。
それほどまでにキロのつけた傷は深かった。
しかし、ベルクを捕縛した功績は、たまたま町の見回りをしていたメガロの手柄になり、晴れて出世することになる。



ギレン皇太子「どうか結婚してくれないだろうか?」
コスカ嬢「・・・嬉しい、ギレン様」


キロの運んだ物は、愛される悪魔、コスカに渡される結婚指輪だった。
この日を境にカルデラの国は大いに狂っていく。



その5日後、宝物庫の警備失敗の咎からキロはカルデラの警備兵を首にされる。