オリジナル小説案
『はたく』
水上孝一7歳のとき
壁を素手で破壊する人物と出会う。
その人物の姿形に関する記憶はすべてなく、破壊された壁と孝一の記憶だけが残る。
2年間、記憶を頼りに壁を殴り続ける。
取っ掛かりも何もないままそれでも続けた。
物理先生に出会う。
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物理先生「話を聞こうじゃないか。君が2年間も費やして確かめたい事、私はとても興味がある。」
孝一「・・・あんたは、俺のことを馬鹿にしたりしないんだな。」
物理先生「内心、馬鹿にはしているかもしれないがな」
孝一「じゃあ、教えない。」
物理先生「すまない、冗談だ。」
物理先生「私の仕事も真実か偽りかわからないことを議論するようなものでね。」
孝一「?」
孝一「これが破壊された壁だ。確かに人が壊したなんて現実には起こらないって考える方が普通の神経だ。だが、ここにくるたびそれが真実だって実感が湧いてくるんだ。」
物理先生「これは・・・」
大人の人間の腕の位置から半径20mほどの扇形状に壁が破壊されている・・・厚さ1mほどのコンクリートの壁・・・
孝一「何かわかったか?」
物理先生「いや、何もわからない」
孝一「おい」
物理先生「仮に・・・振り子の鉄球でこの位置に衝撃を加えたとしよう。壁は壊れるとしてもたくさんの瓦礫が残っているはずだ。そして残った壁の表面がまた奇怪じゃないか。まるでコンクリートが瞬時に砂に変化したような跡だ・・・」
物理先生「・・・・・」
孝一「何かわかったのか?」
物理先生「いや、何も」
孝一「思わせぶりな間を置くな」
孝一「改めて思い出してみると、俺は壊れた壁のすぐ近くで見ていたんだ。大きな衝撃、瓦礫は崩れ落ちるというより砂になっていたように思う。」
物理先生「・・・・いや、だが、君のやっていることが子供の戯言でないとはっきりとわかった。これは一種のミステリーサークルだな。」
孝一「ミステリーサークル?」
物理先生「まあ、いい、他にも色々聞きたいことや考えたいこともある。たまにここへ寄らせてもらうよ。君はいつもここにいるんだろう?」
孝一「・・・まあな」
後から振り返ってみると、このときから壁殴りに意味ができた気がする。ここはひとつの転換期だったんだ。