はたく

はたく



満月は調子の良い日(特殊部隊壊滅の話)




この時期の孝一に近づくべからず・・・




朝、朝食・・・

母の目の前でごはんを食べている人物はいつもと様子が違っていた。
孝一から何か圧迫感のあるものが立ち上っていた・・・

母「孝一・・・何か体から立ち上っているけど」
孝一「?よくわからないよ」
母「そう」


母は、手を滑らせて、お箸を落としたが、ふわりとお箸が浮かんで母の手に収まった。
目の前には孝一が立っていた。
孝一「お箸落としそうだったよ」
母「ええ、ありがと」



大海さんは最近、孝一の家に立ち寄ることが増えていた。
大海「おはようございます。」
母「ああ、大海ちゃんおはよう お茶でも飲んでいく?」


母「大海ちゃん、今日の孝一には近寄らない方がいいわ」
大海「?」

母「毎年、この時期の満月ごろになると、異様に集中し始めて人が変わるのよねあの子・・・」
大海(発情期の猛獣みたいな?)



$$$



最近の孝一のお気に入りのスポットは郊外の荒廃したお屋敷の外壁だった。


孝一(いい壁だ。どっしりとして良く響く・・・)



『おい、お前何をしているんだ?』
※外国語

孝一は微動だにしない。彼が接近してきていたのが数分も前から察知できていたからだった。

孝一「ふ・・・別に怪しいことは何もしていません。」


『(なんだ、こいつ、怪しい)』

男は外国人で、男の面はするどく、一般の人ではない風格があった。

『まあいい、今すぐここを離れた方がいいぜ、巻き込まれたくなかったらな・・・』
孝一(何語?)






$$$



『今夜0:00に作戦を決行する。ターゲットはA地点の屋敷に立てこもっている模様』
『わかっていると思うがもう一度説明しておく。今回の目的は国際指名手配犯”クライスラーエンベルト”の抹殺だ。奴は顔が利くからな。他国に亡命する前に必ず抹殺しろ』
『今回は正面から潜入はしない。奴はトラップ仕掛けの名手だからな。ここの背面の屋敷の壁をダイナマイトで破壊して潜入する。』
『隊長、いくら郊外とはいえダイナマイトは音が大きすぎるのでは?』
『いや、問題ない。当日は近隣で花火大会が催される予定だ。』
『隊長、わざわざ壁を壊すなんて非効率なことをしなくても・・・』
『私の決定が不服かね?壁を壊したぐらいで我々が敗北するとでも?』
『まさか・・・申し訳ありません。考えすぎでした。』



$$$



男は買ってきたつまみと高い酒を飲み干し物思いにふけっていた。
『俺の命も今夜限りか・・・最後の晩餐にしては悪くない・・・』




孝一(駄目だ。目が・・・頭が冴えて眠れない・・・夜に出歩くのは良くないけど・・・もう一度あの屋敷の壁に行こう・・・)
孝一はこっそり家を抜け出した。




ドカン・・・


0;00ジャスト
地面がグラグラ揺れ、壁の崩れるような音が響いた。


孝一(・・・まさか・・・10年前『はたく』を見せてくれた人?・・・)
孝一はその場所にたどり着いた。
孝一(・・・火薬のにおい・・・ダイナマイトか・・・)


孝一「無粋な真似をしてくれる・・・ああ・・・ここはいい壁だったのに・・・どこのどいつの仕業だ・・・」
赤い満月に照らされた孝一のジャージ姿の影、それは赤い目を見開いた黒い怪物のように見えた。





0:03
『A班、ターゲットはまだ発見できま・・・ん?、誰だ・・・うわ・・・』

『A班?どうした、応答しろ・・・』

『こちらB班・・・A班との通信が途絶えた。C班に応援を要請する。』

『C班了解』


0:05
『こちらC班・・・A班を発見、倒れている。・・・気を失っている模様・・・ん敵兵らしき影1名確認・・・交戦に入る。』

屋敷の1階から銃声が聞こえる。銃声が静まって再度連絡を試みるに・・・応答がない。

『C班・・・C班応答しろ』



『こちらB班、A班、C班ともに敵の手に落ちた模様・・・』



『何が起こっている?』
『残りはうちの班だけか・・・ふふつまらない仕事だと思っていたが、面白くなってきた。』
『おい、ニケル・・・不謹慎だぞ。』
『お前こそ冷静になれよ、ジャクス・・・敵兵1名ってことは相当腕の立つ傭兵を雇ったってことだ。俺たち軍の特殊部隊の半数を一人で全滅させる奴だぜ。』


B班のニケルとジャクスはその敵と対峙した。


(黒いジャージを着た子供?)
ジャクスはハンドガンを構えて発砲した。黒い影は左右に動いてかわして近づく、
(これだけ近ければ・・・)
黒い影の顔に発砲したタマはすっと逸れて地面に刺さった。
(なんだ?これは)
ジャクスは黒い影から当身を食らい地面に伏せた。

ニケル(防弾チョッキの上から・・・素手で?・・・すごい威力だな・・・こいつ・・・銃器や防具を使っている動きじゃない。)


ニケル『面白い、さあこい』
ニケルは銃を捨てた。彼は特殊部隊の中で特に格闘術に秀でていた。





誰かが扉から入ってくる・・・おそらく自分を殺しに来た軍の人間だろう。


クライスラー『ああ、待っていたよ。さあ、私を殺してくれ・・・』


入ってきたのは、昼間のジャージを着た子供だった。
孝一「・・・?・・・家主さん、あなたの屋敷の壁に穴をあけた不届き者たちは自分が始末しておきましたよ。」

クライスラー「????」

その人物は黒いジャージに赤い目をした怪物に見えた。







次の日・・・朝、朝食・・・

孝一「・・・母さんおはよう・・・」
母「おはよう、孝一」


孝一は何度も自分の箸を落として食べづらそうだった。



母(良かった、孝一、もとに戻ったのね。)