【月江さん編】ピアノのコンクール
ピアノのコンクール前の一か月はあっという間に過ぎていった・・・
当日、舞台の上
足はガクガク震えているけれどなんとか堪えた。
(今日は・・・水上が来てるんだ・・・頑張るぞ・・・)
曲は・・・静かに始まった。
静かに落ち着いた曲調が続く・・・
ただその中にも・・・ピンと張りつめた緊張があって
息をするのも苦しい・・・
曲調が変わる
音が激しさを増す。
どんどんどんどん速度を上げていく・・・
その情熱的な曲調に胸が熱くなる・・・
そして最後は静かに・・・曲は終わったようだった。
会場から溢れんばかりの歓声が巻き起こる。
たくさんの人が立ち上がってエールを送る・・・
孝一はその姿に・・・ただただ ため息 しか出なかった・・・
横に居る三島は涙を流しているようだった・・・
それは涙を流すに値するものだと孝一は思った。
コンクール終了後、ドレス姿の月江に呼び止められる。
月江「どうだった?」
孝一「・・・すごかった」
月江「・・・」
孝一「・・・」
月江「そっか・・・」
とたとたと駆けていく月江・・・
別れ際とても嬉しそうに顔をほころばせて見えたのは気のせいだろうか・・・
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三島は姿が見えなくなった孝一を探す。
ある言葉を言うために
三島(やっぱり俺は・・・君恵が好きだ・・・水上にそう言おう・・・)
あいつよりも俺の方が君恵にふさわしい・・・そう言うんだ・・・
壁を殴る孝一を見つける・・・
彼の方へ歩く・・・歩く・・・
ズン
あと一歩というところで・・・
壁が大きく振動した・・・
お腹をビリビリと振動が通り抜けていく・・・
ただ・・・それだけ・・・
ただ・・・それだけなのに・・・
圧倒された・・・
一朝一夕の小細工ではない・・・何か・・・
今はそれを言葉に出来ないけれど・・・そう感じた・・・
これが・・・君恵の惚れた男か・・・
三島は・・・
孝一へかける言葉を無くしてしまった
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孝一は考える。
月江の演奏はすごかった・・・
それ以上に・・・
世界で・・・俺だけが壁を殴っている・・・そう思っていた・・・
三島、月江・・・
俺だけじゃなかったんだな・・・
そして、ぼそりと呟く。
「負けてられないな・・・」
今日の壁殴りは少し調子がいい気がした・・・
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数日後、
三島は壁を殴る孝一を見かけた。
三島(相変わらずだな、こいつは・・・)
三島「・・・なぁ・・・俺もそれをやれば月江に振り向いてもらえるかな?」
三島「・・・」
孝一「・・・」
孝一「ファッション壁殴りはお断りだ・・・」
三島「ちっ・・・厳しいな・・・わかったよ」
三島はため息をついた。
ピアノの演奏、月江の魂の籠った演奏に感動する三島
孝一も何かを感じ取る。
孝一「・・・すごかった」
壁を殴る孝一・・・
ああ・・・壁を殴っているのは俺一人だと思ってた・・・
負けてられないな
自分の負けを悟る三島
「なぁ・・・俺もそれをやれば・・・月江に好かれるかな?」
孝一「ファッション壁殴りは・・・お断りだ。」
ち・・・厳しいな・・・わかったよ。
三島はため息をつく。
月江「・・・わ・・・私も・・・やるもんでしょ?」
孝一「・・・ああ」
廊下でボロボロと泣く月江