はたく(仮)
ご町内にて
孝一の住む町内には一件の寂れた道場が存在した。
その道場の周りを清掃する女性がひとり…
彼女の名前は真田柚葉
その袴姿の道着を着ており、その立ち居振る舞いには隙がない。
となりの家のおじさんが彼女に声をかける。
「おーい、ユズハちゃん 回覧板だよ」
「…ありがとうございます」
「それと最近この辺りに『壁の前で何かをしている不審者』が多く目撃されているようだがら気を付けるようにね」
「壁の前で?何をするんです?」
「さぁ、なにかブツブツ呟いて、壁を殴り続けているらしい」
(…そんな人物いるわけないでしょうに)
道場周りの清掃もあらかた終えた。
さてそろそろ夕飯の準備でもと考えていると
道場の壁の前にひとりの男子が立っていた。
何かブツブツ呟きながら…
…壁を…殴って…
居た、本当に居た…
怖ッ、何あれ…
男子はユズハに気づいて逃げようとしたが、
ユズハはぐいと襟を掴んで男子をしょっぴいた。
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道場で正座して向かい合って座る。
出された安いほうじ茶をすすりながら孝一は弁明した。
「おかしなことは断じてしていません。これは・・・真理の探究です」
ユズハもほうじ茶をすすり、一息ついてこう言った。
「いいから、親の電話番号を言いなさい」
「親バレは勘弁して欲しいなぁ…なんて」
孝一は事情をすべて説明した。
「話はわかりました…全くわからない気もしますが…つまりあなたは『不良でヤンキー』ということね?」
「え…どちらかというと品行方正な人物をめざしているんですけど」
「こんな時間に出歩いて、人の家の壁で妙なことをしている品行方正がありますか・・・そう、あなたが不良ということは…『この道場に入るべき』ね」
「は?」
どうしてそうなる…
「社会で必要とされていないと感じる不良が、この道場で稽古する内に次第に自分の存在を認めていく、そんな感動するエピソードが必要なのよ。この傾いた道場にはね」
「…この道場傾いているんですか…」
「ええ、今も門下生ひとりいないわ」
「・・・帰っていいですか?」
「月謝は安くしておくわ、明日もまた来るように」
彼女の勧誘はとても強引であった。
孝一は見つかったとばかりに逃げようとしたが、ぐいと襟を掴まれてしょっぴかれたのだった。
道場で正座して向かい合って座る。
出された安いほうじ茶を飲みながら孝一は弁明した。
孝一「おかしなことは断じてしていません。これは・・・真理の探究です」
孝一「親バレは勘弁して欲しいなぁ・・・なんて」
孝一は事情をすべて説明した。
ユズハ「話はわかりました・・・全くわからない気もしますが・・・つまりあなたは不良でヤンキーということね。」
孝一
ユズハ
孝一
ユズハ
孝一「・・・この道場傾いているんですか・・・」
ユズハ
孝一「・・・帰っていいですか?」
ユズハ「月謝は安くしておくわ、明日もまた来るように」
水上孝一は町内でも有名であった。
昼夜問わず、良さそうな壁を見つけては殴っていた。