脛蹴り 礎


銃弾なんて怖くない その2




初老の殺し屋、ヘクトル=マデウ




この歳になってまで、殺し屋などという職に手を染めている自分は滑稽でしかない。
短筒銃ショートガン・・・
一般的に、短筒は魔術制御が難しく、実用不可能とされている。
だからこそ、隠し持って、不意を突き、これまで多くの命を奪ってこれた。これが長年連れ添った私の獲物だ。


「人の命を奪うことに罪悪感を覚えないか」


罪悪感は当然ある。
いや、あったという方が正しいか・・・
年月が経つとともにその感覚は全くなくなってしまった。

だが、ただひとつ、こう思うようにしている。


『彼らは歴史の礎いしずえとなった』


今までたくさんの死を見てきた、自分の手で下してきた。
それはその後の輝かしい未来のため、そう思うようにしてきた。
歴史は、今現在自分が立っているこの場所はたくさんの死体の上なのだ・・・と




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汽車はけたたましい音を立てて渓谷を走り抜けていく。
現在時刻18:00
もう辺りは真っ暗だ。


単身荷物に紛れて潜入していたヘクトルはゆっくりと辺りの様子をうかがう。
誰もいないことを確認して、服を着替える。
傍目にはただの旅の老人だ。


専用車両に乗り込んだのはターゲットを含めて5名・・・
魔術式の探知に引っかかった人物は3名

1名:ターゲット
3名:護衛
残り1名:???

おそらくは議員の縁者か連れ添いでしょうか。
なるべく不確定要素を取り除きたいですが
ここまで手薄な好機を逃す手はない。



ん?
誰か、単身、こちらに向かってくる。
魔術探知に引っかからない・・・
ターゲット?


ヘクトルは覚悟を決めて、
ターゲットのいる車両の取っ手に手をかける。




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ケイシュウは列車の廊下を歩く。
乗り物というモノは何回乗っても慣れないな
というか酔う。


銃弾の対処の仕方
俺はあの時、師匠に反論した。

銃:『構える』⇒『狙いをつける』⇒『引き金を引く』 3ターン

なのなら、「最初から構えていて、引き金に手をかけていたらどうするのか?」と


ケイシュウ「しかも躱せないぐらいの至近距離だったりしたら」


師匠「ふむ・・・そうだな・・・」




廊下の先、
老人が躍り出る。

手に短筒銃ショートガンを構えてこちらを狙う。



次の瞬間、老人の手から銃が消える。


「・・・へ」



ガシャン!


天井から金属の衝突音が鳴る。
(私の銃、蹴り飛ばされた?)

老人は迷わず、腋に備えておいた2丁目の銃に手をかける。


「・・・、遅い、3ターンだ」


ケイシュウは老人の脛を蹴り飛ばした。





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次の日、夜明け、
目的地に列車は到着した。


シスナが不機嫌そうに叫ぶ。


「あんた、暗殺者、取り逃がしたんだって、もう何やってんのさ!!」


「・・・すまん」
脛に撃ち込んで、数秒で気絶する前に窓から川に身を投げたんだ。
普通なら痛みで動けなくなるか、それでも戦おうとする者が多いんだが

今回は帝国の中でも有名な暗殺者が来る可能性があったらしく、
名を上げることに必死なシスナとしては何としても捕えたかったらしい。


シスナ「じゃあ、その場で列車を飛び降りて、そいつを追えば良かったでしょう」


えー列車から飛び降りろと?
体バラバラになっちゃうだろうが



シスナ「・・・あんたなら、大丈夫(多分)」



無責任に言うな






まぁ・・・大丈夫な気はするが。













次の車両にターゲットが居る。
ここからは流石に老人が迷いこんだでは済まないでしょうな




生きてさえいればなんとかなる


中々に酷い言葉だ。
いや、私にとってのみ酷い言葉。



クライアントから冗談交じりに質問される。

「その歳まで続けて来れた秘訣は何ですか?」

私はゆっくりといつもの調子でその言葉を返す。
「若い頃に・・・酒と煙草をやめたからですかな」


正直なところは運が良かったからだろう。
敵地に単身飛び込んでの鉄砲玉のような仕事だ。
いつ死んでもおかしくはなかった。
現に自分の隣の仲間たちは次々と脱落していった。