脛蹴り ヘゼルス閣下は考える。

ヘゼルス総督は考える





歴史の勝者は『運のよい者』である。





おおやけに口に出すことは絶対的にないが、そう考える。


思えば人生敗けてばかりだった。


楽家を目指した若い頃、
来る日も来る日も楽器を弾き続けた・・・
努力、努力さえすればきっと夢は叶うと純粋な若い私は信じ込んでいた。
今となっては、笑い話だ。

ついに音楽大学に入ることもかなわず、
自分に才能がないとあきらめた。


父親のコネで帝国軍に仕官することになり
体力のない私は『魔術研究班』という
その当時何の注目もされない部隊に配属となった。


ここで私の人生は大きな転機を迎える。




魔術だ・・・




その有用性にいち早く気付いた私は
他者を押しのけそれを独占した。

そして、のし上がる、邪魔な者は次々闇に葬った。

笑いが止まらない、こんなにもこんなにも簡単だったのだ、成功とは・・・



自室でワイングラスを傾けながら、ふと我に帰る。



「総督!本日の演説も誠に素晴らしい物でありました」

敬礼する小間使いの新兵



「トーナメントという制度は・・・」



「?」



「酷いものだな・・・勝つことができるのはたったの1名だけなのだから・・・」



「つまりはだ。誰もが皆『敗者』なのだ。誰かに敗け、惨めな想いを抱いている」



「だが、戦争は違う、勝つことが出来れば、全員が『勝者』となれる、私はそう説いただけのことだ」



「はっ、素晴らしいお言葉であると思います」



『運の良さ』の他にも勝つための要素があるとすれば、
『敗けた経験を持っていた』という要素もあるのだろうか

「勝つことができる」そうささやくだけで、誰もがその美酒のために狂気に踊る。

そう気づいてしまったのだ。



さぁ、せいぜい、優雅に舞ってくれ・・・
死んで朽ち果てるまで・・・な



ヘゼルスはワイン飲み干す。
今日はずいぶん酔いが回っているようだった。