はたく

はたく



・熊さん




体長2mを超える大きなヒグマがのっそりと歩いていた。
この町中で起こるはずのない現象に人々は自分の目を疑い声をかけることはなかった。


熊「ああ、ちょっとすまねぇ、そこのお嬢ちゃん、真田道場はこの先かい?」

大海「・・・はい?・・・ええ、ここをまっすぐ行ったところが真田道場です。」

熊さん「ありがとよ、これ大根なんだが、もらってくれ」

大海「・・・いいえ、どういたしまして・・・・」



大海(えー・・)


孝一は最近『はたく』の調子が悪かった。
この真田道場の壁はたしかにいい壁だ・・・だが、いつまでもここに居ていいものだろうか・・・
ここで『はたく』の練習をしているとろくなことが起こらない。
ジーパン侍に斬られそうになるわ、女子高生に斬られそうになるわ


孝一(そうと決まればここを一刻も早く離れよう・・・)
熊「うーす、邪魔するぜ。」
孝一「!?」


孝一(・・・熊・・)
熊「そこの少年、ユズハちゃんはいないのか?」


孝一「・・・さー、俺は通りすがりの壁マニアなので、ここの住人のことはさっぱり・・・」
熊「・・・その動き、真田流だな・・・」

孝一「・・・は、動きでわかるの?」
熊「・・・まあ、カマをかけただけだったんだが、」



熊「・・・ふふん面白い。ユズハちゃんの弟子がどれほどのものか。俺が相手してやろうじゃないか。」


真田流は畑に出た熊を撃退するための武術・・・真田流の熟練度を見るにはこれ以上にない相手・・・



熊「うらああ」
熊は腕を振り上げて振り下ろした。
速っ・・・食らったら死んでしまう。


孝一は間一髪避けて、投げる動作に入ったがかわさ、逆に放り投げられた。

孝一(真田流の投げにそっくりだ。)
追撃をかわして距離をとる。



熊の方も真田流の動きを踏襲して強くなっていったのよ・・・



孝一(あれ、本当のことだったのか、・・熊なのに)
熊「はー、期待外れだな、まだまだ素人くさい動きだ。」


孝一(・・・くそう・・・じゃあ『はたく』でなんとかしよう。あれは壁・・・あれは壁)


熊(・・・急に動きが・・・)
孝一が一気に距離を詰めた。熊は後ろに飛んで距離を取った。
熊(俺の野生のカンが言っている。これはヤバい・・・)



コンビニ強盗も・・・サムライオヤジも・・・女子高生も・・・俺は一度も真田流で勝っていない・・・



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熊「ふ・・・まだまだだな・・・」
孝一は何度も投げをくらってボロボロにされたのだった。

孝一「ちくそう・・・」



道場の中で熊と正座で向かい合って話す。
熊「ユズハちゃんが道場開いているって聞いてはるばるここまで訪ねてきたわけだが・・・」


熊「なんだユズハちゃんはいないのか・・・」
孝一「ええ、突然、急用ができたからとか言って失踪中ですよ。」


熊は荷物から大根を取り出して孝一に渡した。
熊「ほれ、食え食え」
孝一「どーも(生・・・)」


熊「ここに来る途中、すげえ可愛い女の子がいてよ。あれは将来美人になるぜ。」
孝一「へー(このひと、着ぐるみ着たおっさんじゃないのだろうか)」


熊「そういえば、さっきの戦い。動きが変わったがなんだあれは・・・」
孝一「あれは『はたく』です。真田流じゃありません。真田流としての勝負に使っていいものじゃない。」


熊「ぶ・・・はははははははははは」
孝一「・・・何がおかしいんです?」


熊「真田流には結構攻撃的な技も多いわけだが、一切教わっていないだろ?動きでわかるぜ。」
孝一「え・・・そうなんですか」


熊「ユズハちゃんは常々言っていたよ。『あんな攻撃的な技、時代に合わないから、私の代ですべて消滅させる』って、つまりおめえさんの習った技は、真田流の中のユズハ流ってわけだ。」
孝一(なんですとー)




熊「そんなに堅苦しく考えんなよ。それが真田流だって思えばそれが真田流なんだって気持でいいと思うぜ。」

孝一(・・・そんな適当な・・・ユズハ師匠らしいけど)


熊「さあ飲め、飲め」
熊は一升瓶を傾けた。
孝一「俺はまだ未成年ですって」


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母「あら、こんないい銀鮭どうしたの?」
孝一「熊さんからもらった。」


母(魚屋の熊さん?)


その日を境にまた『はたく』の調子が良くなってきた。





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熊「そもそも真田流だってユズハちゃんの祖父が初代の歴史の浅い武術じゃないか」


先代熊「く・・・なんだその武術、空手か?柔道か?」
初代「ああん、これは俺の武術・・・真田流だ!!」


熊「って感じにネーミングされたらしいぜ」
孝一(マジかー)