はたく 【異世界蹂躙編】 今日、絶対に敵に回してはいけなかった人々


はたく 【異世界蹂躙編】 今日、絶対に敵に回してはいけなかった人々





青い満月が静かに魔法学校を照らす・・・





オーミーから身振り手振りと地面の絵で
おおまかな説明を受けた孝一はすっくと立ちあがった。



孝一「よし、行くか・・・」

オーミー『・・・何言ってるの?・・・殺されにいくようなものだわ・・・止めた方がいい。』
オーミーは孝一のそでを掴む。




・・・世の中には・・・どうしようもないことがある・・・今だってそう・・・





言葉はわからなかったが、その様子は、何かを思い起こさせた・・・
遠い昔・・・何度も思い出そうとした場面・・・
俺が弱音を吐いた時・・・その人は・・・壁を壊して見せた・・・



孝一(こんなの・・・ただ はたいた だけ・・・か・・・)



今も・・・まだはっきりと思い出せない・・・
でも、今日は・・・今までで一番鮮明に思い出せる・・・そんな気がした・・・







オーミーの手から孝一の袖が離れる。
代わりにオーミーの手には・・・・一個の『異世界饅頭』が置かれていた。



孝一「・・・それでも食べて・・・まったりしてろよ・・・」




オーミーはその場にヘタレこんだ。







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正教会軍の最高現場指揮官、騎士団長は最悪の気分だった。

こんな女性や子供の多い施設を攻めるなんて何を考えているんだ・・・
まして・・・私の長年の持病であった腹痛をここまで改善してくれた恩人ともいうべき施設や人々を傷つけるなど・・・
私は反対した・・・司教に懇願した・・・だが、それは叶わなかった・・・





ズン・・・






自分の暗い思考を払うかのような衝撃が・・・走った・・・お腹がしびれるように熱い・・・


『報告!第5部隊伝令、第5部隊は全滅だそうです・・・』

『!・・・どういうことだ。ついさっきまで、順調だと報告があったばかりではなかったか・・・』







同じ衝撃が走る・・・
今度はさっきより近づいてくる気がした・・・
何かが・・・こちらに向かってきている・・・




『隊長!同じく先行していた第6部隊も連絡が途絶えました・・・』

騎士団長『全軍、警戒態勢・・・一度こちらへ帰還する命令を出せ!!』



なんだ?・・・何かの魔法兵器か?・・・
だったらベルデア様の補助魔法と耐魔法防具によって大半は効果がなくなるはず・・・



現れたのは・・・黒い衣装の・・・まだ子供?だった・・・
しかも・・・鎧も武器もなにも装備していない・・・




ひとりの兵士が・・・彼の死角から槍で突く。
槍は・・・彼の体をすり抜けるように彼の体を反れていく・・・そして、兵士は彼に引き寄せられて
鎧に触ったようにしか見えないが、兵士は・・・眠るように倒れこんだ。
なんだ?・・・わからない・・・
あんな厚い鎧の上から・・・一体何をした?



騎士団長『私が出る・・・お前たちは遠巻きに援護しろ・・・』




騎士団長は自分の背丈ほどもある大剣を孝一に振り下ろす。剣は孝一を避けるように反れていく。孝一は横断歩道でも歩くように平然と騎士団長に対して距離を詰める。先ほどやられた兵士の姿が脳裏によぎる。


騎士団長は慌てて後ろに飛び退いて距離をとる・・・無様に・・・情けなく・・・
今の私はきっと怯えた子ウサギのような顔をしているだろうか・・・



騎士団長は雄たけびをあげる。恐怖を振り払うため、自分を鼓舞するため、
よし、大丈夫だ。こんなところで負けるわけには、いかない。

孝一はその様子を立ち止まってまじまじと見た。そして一言






孝一「あんた・・・自分の破壊したい壁から・・・逃げているように見える・・・」






騎士団長は硬直したように動作を停止する。
この黒い子供が何を言ったのか。言葉自体はわからなかった。
だが・・・すべてを・・・見透かされている気がした。


騎士団長『うああああああああああああああああああ』
騎士団長は策もなく突進し、孝一の前に沈む。




『騎士団長!!!』
『騎士団長!!!』


『怯むな!!!弓を使え、奴は遠距離から攻撃できない!!』


兵士たちが・・・孝一を囲んで・・・弓を引く・・・





プツン





弓の弦が切れる・・・いや・・・弦だけでなく・・・弓も真っ二つだった・・・折れたのではなく綺麗に切断されて・・・そう認識した直後に・・・自分が地面に伏していることに気づいた・・・

銀色の刃が目にもとまらぬ速さで踊る。その方向の兵士たちが次々と倒れていく。


『な・・・なんだ・・あの剣士は・・・』
『おい・・・あれ・・・カザキリじゃないか・・・』


カザキリ!!』
カザキリが出たぞ!!!』

風切の方に注意を向けた兵士をキロは倒していく。付近の兵士はあらかた片付いた。





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風切「・・・水上・・・お前の相手はこいつらの後だ・・・」
孝一「・・・」


風切「・・・大海に似ている子が地面に伏して泣いているのが見えた・・・あの子を泣かせたこいつらをまず〆る・・・」
風切は翻って兵士を狩るべく駆けて行った。


孝一(・・・大海のこと好き過ぎだろこいつ・・・あと・・・風切から出てる白い煙なんだろ・・・)





孝一の後ろに新たに白い煙を立ち上らせる人物が現れる。

熊「よお・・・孝一・・・久しぶりだな・・・」

孝一「・・・」


熊「面白そうなことしてるじゃねーか。俺も混ぜろよ・・・」



孝一「なんか・・・あんたから・・・圧迫感のある白い煙が立ち上っているけど・・・」
熊「・・・ん?・・・そうか?・・・俺も白髪が増えたかな・・・」


熊も翻って、兵士を狩るべく駆けて行った。



熊は張り切って兵士たちを投げ飛ばす。
そんな中、緑の巨体がこちらに向かって来た。


オーク『久しぶりだ・・・毛むくじゃらの化け物・・・困っているなら・・・手を貸そう・・・』

後ろにはゴーレムと上に乗っかるエルフの子供も続く。
エルフ「うおおお、行くぞおおお」





さらに、孝一の前にゾンビの大群も現れる。

ゾンビ「ああ、孝一さん。この間はどうも。大変そうですね。うちらも手を貸しますよ・・・定時までですけど」


孝一(・・・あれ?・・・この人たち・・・手伝ってくれるほど・・・仲良かったっけ?・・・)


ゾンビ『おらあああ、行くぞこらあああ』
ゾンビ『うおおお』
ゾンビ『うおおお』





この時を境に戦況は一変する。


満月の夜・・・
それは正教会の司祭の魔法が最も効果を発揮する日だったらしい・・・

だが、同時に・・・彼らは今日、絶対に敵に回してはいけなかった。























騎士団長『お前に・・・何がわかる?・・・以前の司祭様はとても素晴らしいお方だった・・・この兵士たちも私にこころよく尽くしてくれる・・・すべたは・・・正教会という庇護のもと実現したことだ。私はすべてを守り切らなければならない。家族も兵士たちも正教会も・・・だからだ。だからだ。私は・・・戦いたくもない利益や欲のためだけの戦争にも赴かねばならない。・・・私の剣を向ける方向は・・・間違っていないんだ!!』



普段、声を荒げて怒ることの少ない騎士団長の様子に兵士たちは動揺を隠せない。