勇者ウツロニアン
特別な存在・・・仕事のモチベーションとしてこれ以上のものはないだろう。
この人にしかできない仕事を華麗にこなす、誰からも認められ尊敬される・・・そんな風になれたらきっと仕事は楽しくてサボることなんて考えないだろう・・・
しかし、ウツロ=ハイイロは他の凡百と同じ、いや、魔力5だからそれ以下の剣士であった。
ウツロは小説を読みながら思う。
ああ、この本に書かれているような『経験値』や『レベル』なんてものがあればもう少し努力するんだけどな・・・いや、せめてもう少し魔力があれば良かったのに・・・いやいや魔力はなくても特殊能力とか付加されて生まれたかった・・・
「いや、ウツロ殿は既に我々にとって特別な存在であるぞ!」
天井からハスキーな声が聞こえた。いつかの『髭スライム』がぼとりと天井から落ちてくる。
※20話参照
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髭スラ「今日来たのは他でもない。この本をウツロ殿に寄贈しに来たのだ。」
髭スライムはどこからか厚い本を取り出す。
【勇者ウツロニアン物語】
『(冒頭)・・・これは魔王マデラマ二アークサタン に滅ぼされかけた ベルベットアベルシュタイン国 の危機を救った 勇者ウツロニアン の物語である・・・』
ウツロ「・・・なんだ?これは・・・」
髭スラ「ウツロ殿の功績を物語調に書き留めたものだ。そちらで言う『ノンフィクション小説』という奴だ。」
ウツロ「・・・ウツロニアンって?」
髭スラ「・・・ウツロという名前勇者っぽくないということで少し改変を加えたのだ・・・編集長判断だった・・・私は最後まで反対していたのだがな・・・」
ああ・・・そう・・・
ウツロはぺらぺらとページをめくる。
ウツロ「この挿絵の濃ゆい顔の人物は誰だ?」
ウツロ「無論、ウツロニアンだ。」
全然似てねぇ・・・
ウツロはさらにぺらぺらとページをめくる。
ウツロ「ここの最後の『追いつめられて城のてっぺんから転落した姫様を優しく抱き留めて、微笑みかけるウツロニアン』って・・・」
ウツロ「絶対こんなシーンなかっただろ・・・」
髭スラ「・・・いや、そのシーンは我らの姫様が『実体験』だとおっしゃっていたが・・・」
そういえば・・・あの仕事の最後らへんで・・・高いところから落ちてきたスライムが肩にぶつかってきたような気が・・・あれ、こんな感動的なシーンだったのか・・・
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髭スライムの持ってきた菓子折りを食べ紅茶を飲んで一息つく。
髭スラ「話を最初に戻すが・・・ウツロ殿は十分に特別な存在であると私は言いたい。」
ウツロ「・・・」
えらく褒められている・・・悪い気分はしないが・・・なんだか複雑だ。
髭スラ「全く、『スライム界隈の勇者』としてもう少し胸を張って欲しいものだ・・・」
それを口外したならば、
自分の評判がさらに落ちるのだろうなとため息をつくウツロだった。
胸なんぞ張れるか・・・むしろ評判が落ちるわ・・・
髭スラ「やはり覚えがあるではないか・・・どうだ、生で見る 姫様 はより一層美人であろう?」
ウツロ「・・・あ・・・ああ・・・」
ただのスライムにしか見えないと少し言い辛い・・・
髭スラ「ふー、やっはり人間のメスが良いのか・・・」
髭スラ「なんだその反応・・・」
ウツロ「・・・」
やはり下半身でしかものを考えられるのか・・ふん汚らわしい・・・ふんサルめ
その言い方やめろ
ウツロ殿はもう少し胸を張った方が良い。
ウツロ「・・・」
今からでも街へ出て『我は勇者ウツロニアンである、我をたたえよ』などと言えないものか・・・
言 え る か
全く、『スライム界隈の勇者』としてもう少し胸を張って欲しいものだ・・・
胸なんぞ張れるか・・・むしろ評判が落ちるわ・・・
【ウツロの称号】
ミスタースライム
無職
キャバ嬢連れ込み
勇者ウツロニアン
事後報告かよ・・・
ウツロ「・・・」
ウツロは剣を構えた。
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ウツロ「・・・ち」
今回も仕留めそこなってしまった。
髭スラ「はは、毎回歓迎が手荒いなぁ・・・ウツロ殿!」
ウツロ「それにしても久しぶり・・・けっこう間が空いたな」
髭スラ「・・・いや、つい何十日か前も来たのだが・・・お主が女子おなごの胸を真剣に揉んでおるところに遭遇してしまってなぁ・・・お取込み中だったかということで日を改めたんだ。」
※39話参照
あそこを見てたのかよ・・・
髭スラ「・・・で・・・あのおなごの『胸のスライム』は・・・どうだった?」
・・・や め ろ
スライム国の英雄
特殊能力欲しい
特別な力を持っているではないか・・・
やはり下半身でしかものを考えられるのか・・ふん汚らわしい・・・ふんサルめ
その言い方やめろ
勇者ウツロニアン・・・
誰だよ!
事後承諾・・・
なんて高等テク
いいなこの世界・・・レベルとかあって・・・
努力しただけ強くなれる・・・そんな世界になって欲しいーー
スライム界隈の勇者