謎の少女と先王の失敗
魔法を覚えてみても・・・周囲の環境は何も変わらなかった・・・
魔力5じゃ・・・何も変えられない・・・
「そんなことはないよ・・・」
少女の声がした。
今はラグベール城の廊下の掃除中だ。
呆けていた俺の背中をぽんと叩く。
この子は最近後輩になった『トウカゲ』という名前の少女だった・・・あれいつからだって?・・・記憶が全くない・・・
「今はまだ・・・未完成でみすぼらしいかもしれない・・・みっともないかもしれない・・・何度も失敗して試行錯誤して・・・時にはゆっくり休んで・・・徐々に徐々に磨かれていく・・・そういうモノなんだよ・・・」
俺が魔法を習っていることを知っているかのような口ぶりだな・・・
そもそも・・・なんで俺は年下のこの子にお説教されているんだろうか・・・
「私は・・・長く生きているからこそ・・・そう思うよ」
長く生きている?・・・
「・・・ああ、これはボクのおばあちゃんの口グセだけどね」
焦るトウカゲ
別の場所を掃除してくると去っていく彼女・・・
あれ・・・彼女を知っているという感覚はあるけれど・・・いつからだったかをどうしても思い出せなかった・・・
ジレンから魔力を上げる効果があるともらった首飾りが淡く光っている気がした。
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夕刻、急遽、王も参加する宴会が開かれることになったので大急ぎで準備に追われていた。
なんの記念だろうか・・・まったく、思い付きで宴会されたのでは準備する方はたまったものではない。
大忙しの厨房から出来た料理を次々と運ぶ。
入ることのできない王の間から ちらりと王の姿が見えた。たいそうお酒を飲んでいるようだった。ふと、目に付いたのだろうかウツロは王に呼び止められる。
王「・・・君の魔力は・・・5か・・・えらく・・・低いな・・・」
国王の手の甲にも魔力の値を示す刻印が刻まれていた。
高い魔力数値だ・・・流石 国王と言ったところか・・・
王はたいそう酔っているようだった。舌足らずで話を始める。王の話を聞かないわけにはいかず、ウツロはビビりながらもその声を聞き逃すまいの耳を澄ます。
王「これは・・・先代の愚かな男の話だ・・・」
大戦中、クラスティアの魔法協会に押されつつあった最中・・・
ラグベール国も魔法についての研究を始めた。
その基本となる魔力の測定・・・
先王である父の数値は・・・魔力6だった・・・
奴はその結果が出たとたん
『魔法自体を邪悪なものである』と認定した・・・
仕舞には、国内の魔法使い弾圧さえ始める始末
それから1年もせず、わが国はクラスティアに敗戦することになったんだ・・・
王「・・・あの大戦の敗因はあの愚かな父親の『弱さ』が原因だよ。」
国王の恨みつらみが籠った本気の言葉にウツロは返す言葉が見つからない。
・・・
王「・・・君は・・・魔力5であるわけだが・・・」
王「・・・自分の弱さに・・・どう立ち向かう?・・・」
・・・
・・・・
ウツロは言葉が出てこなかった・・・
王「ははは、つまらない昔話に付き合わせてしまってすまない、忘れてくれ・・・」
ウツロはビビるばかりだった。
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同刻、ラグベール城、城外にて
ジレン「お疲れ様です。トウカゲ様・・・」
トウカゲ「うん、ウツロって男の子を目印にうまく潜入できたよ・・・」
【トウカゲの魔法】
①魔術の籠った装飾品を目印にして空間同士をつなげて瞬間移動する。ただし、一定距離に限る。
②認識変換:自分のことを古くからの知り合いであると認識させる。魔力が低い者にのみ有効。
・・・城内に高位の魔法使いがたくさんいた・・・それだけなら問題ないけど・・・何かもっとヤバい物を隠している・・・そんな気がする・・・上手に隠しているから『しっぽ』すらつかめない・・・
なるべくなら・・・和平条約通り・・・不干渉でいたいけど・・・
なにかしないとマズい・・・自身のカンがそう言っている・・・
「・・・・ボクは・・・一度クラスティアに帰る・・・アクアローナ達を呼んでくる・・・」
ジレンはトウカゲを見送った。
何もない静かな夜・・・
ジリジリと刺すような不安が増していくような気がした。
王「君を見ていると・・・君の出す答えを見たくなったんだ・・・」