透過風切りを放った理由
むなしい・・・
それが、シルドと戦うことになった時のウツロの率直な感想だった。
底辺同士が争うなんて、情けない、意味がない、むなしい
(実際、シルドさんはそこまで底辺ではないけれど)
底辺同士・・・そればお互い傷を舐めあいぬくぬくできる素晴らしい環境
争いは上部連中でやるものでしょう?
『透過風切り』しか打つ手が無くなった時・・・ウツロは悩んだ。
透過風切りはウツロの切り札である。
初見の効果は高いが、2度目はたいてい見切られる。
こんな意味のない戦いに自分の『隠すべきカード』を見せるべきでない。
これで勝てるならば・・・いいのか?
いや、負けたらどうなる?・・・もし初見で見切られたらどうする?
立ち直れないんじゃないか?
『透過風切り』は自分の最後の拠り所よりどころじゃあないか・・・
①ここで『透過風切り』を使わずに負ける
②『透過風切り』を使って負ける
どっちが精神的ダメージが大きいか明らかだ。
あそこで『透過風切り』を使えば勝ってたんだけどなー仕方ないよなー
と自信を失うことにならない・・・
よし、負けよう・・・
セリフは・・・そうだな・・・
悔しそうに膝をついて
「く・・・俺は・・・シルド大先輩の足元にも及びません・・・俺の負けです」
そう・・・言えばいいんだ・・・
$$$
「俺は・・・何をしているんだ・・・」
飲み屋からの帰り、ふと我に帰るウツロ
「ウツロせんぱ〜い・・・わたしたちも・・・勝ちたいですぅ」
背中でふにゃふにゃ何かをつぶやくミラ・・・
お前・・・飲んだんだな・・・
被害がなくて本当によかった。
シルドに勝つ意味なんてない、
仮に勝ってもシルドとマリエの実績が無くなるわけではないし
お察しされているウツロやミラの汚名が無くなるわけではない・・・
馬鹿、止めとけって
立ち直れないんじゃないか?
透過風切りが2度目見切られるってわかった時みたいに落ち込むぜ?
それが自分の
なぜ放ったんだろう・・・改めて考えてみても・・・わからなかった
トウカゲ「魔法協会にくればいい、面白い子達がたくさんいてきっとウツロちゃんも『楽しくなる』はずだよ・・・」
前にトウカゲちゃんに言われた言葉を思い出すのだった。
でも、今日、勝てたのは誇らしいかもしれない。
今この時の優越感なんて
時間がたてばすぐになくなってしまうだろうけど・・・
自分の記憶にはしっかり刻んでおこう。
泣くミラと少し上機嫌なウツロ
ウツロ「俺、シルドさんのこと尊敬してますから・・・頑張って下さい・・・」
シルドはウツロの頭をかき回す。
シルド「俺に勝っておいてその他力本願は許さんぞ」
なんとも照れくさかった。
シルドとマリエの自宅
羨ましいです・・・ウツロ先輩
確かにいい家具が揃ってるもんな・・・
客室は1室しかないんだが・・・
いえ、おかまいなく
ミラ、お前飲んだんだな・・・
今日はおとなしかったからまぁいいが・・・
ミラにドキドキ
シルドとマリエさんの嬌声が聞こえる
ぶーーーーー
な・・・な・・・
眠れなかった、ウツロ
ウツロ先輩大丈夫ですか・・
大丈夫じゃないかもしれない
しかし、その理由は到底話せなかった。
そして、思った・・・俺はやっぱり負けていると
こんな野良試合に使っていい技ではないと自分で決めたはずだった・・・
・・・
本当は勝てたのにな・・・などと
後生大事にこの技を隠し通す・・・
そんな自分の姿が見えた・・・