【魔法協会創設編】アサシンと殺戮衝動


【魔法協会創設編】アサシンと殺戮衝動




・・・




死ぬ間際のワーグナーアルザスに何度も何度も懺悔の言葉を繰り返していた。

アルザスは痛みを感じない。刺されようが首を飛ばされようが動くことができる。
心臓近くにある核を壊されない限り死なない。
いや、死なないのではない・・・既に死んでいるのだ・・・
アルザスはすでに死んでいて意識だけが・・・ワーグナーの作った呪いの魔術具の中に封じ込められている。

そしてその人形は、ワーグナーの命令通り『魔獣とラグベール国民を殺せという殺人衝動』に絶え間なく駆られる。


その衝動は日に日に大きくなって制御しきれなくなっていく。
むしろ、自分の意識自体が消えかかっているのかもしれない。



「殺せ、殺せ」と頭の中で声が響く。



アルザスは屋根の上、星を眺める。



昼間の熱気が思い出されて・・・胸が熱くなる。
凱旋パレードすごかったな・・・
こんな私が・・・あんなにも賞賛されるなんて・・・
嬉しい・・・



「あなたの意志にみんなが引っ張られたのよ」


アクアローナの言葉を思い出す。
私の意志は・・・本当に存在するのだろうか?
私は疑い続ける。
私の意志は単に・・・殺戮衝動を満たすための言い訳かもしれない・・・


もしそうであるならば・・・私は・・・一刻も早く消えるべきだ




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暗い地下倉庫・・・
一本のロウソクの下、アサシン達が集う。


「ラグベール本国の指揮系統はもはや機能していないようだな」
「ああ、今回の遠征の大失敗で、大赤字、責任問題にまで発展しているらしい」


そこで今回の任務は「魔法協会幹部の暗殺」だ。


「もっと早くに芽を摘んでおくべきだったんじゃないか?」
「結果論だな・・・元来あいつら魔法使いは貴族や王族の命令なしには動かないとされていた。」
「だからこそ、リムガントの貴族と王族の動きを封じる作戦に専念していたんだ。」


「奴らは戦闘に特化している。一筋縄ではいかないことを覚悟しておいてくれ」
「「了解」」


「魔法協会幹部の居場所を・・・突き止めました」


よし、動くぞ



ふっとロウソクの灯りが消える。





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アサシンのひとりは考える。
時代によって戦争の戦術は変化する。
投石から弓、鎧や騎馬による大規模戦闘・・・戦術は絶えず高度に進化していく。
これからの時代は『魔法』が支配するか?いや、違う
支配するのは、『暗殺』だ。自らの情報を与えず、丹念に下調べする暗殺こそが
権力や腕力や魔力をひっくり返す力になる。これからは俺たちの時代なんだよ魔法使いども・・・今日それが・・・証明されるんだ。



屋根の上、矢を構える。


銀の矢・・・
これで鉄の魔女を殺すことができるはずだ・・・


今だッ!!!


スパン



目が暗い空を仰ぐ・・・え?


ああ・・・自分の首・・・飛んでる。
大剣を持つ人影が見えた。
長い髪、傷だらけの顔、そして、自分のことを虫けらの様に見下ろす残忍な眼・・・
そして、同時に殺戮を快楽としている・・・俺たちと同じ目・・・だな
あれは・・・ターゲットのひとり・・・アルザ・・・



「ベレッタ!!」



アルザスはその声を聞き逃さない。
風の魔法で飛行して次のターゲットと剣で組み合う。
アルザスの風の魔法剣はアサシンの剣を紙を割く様に切り裂いて本体を斬る。



刹那、背後の人物が自分の首をはねる



「ひゃっはー!一人目いただき!!・・・この調子でどんどんいこうぜ?」



ザシュ・・・


彼は胸のあたりから剣が突き出ているのに気づく。
「は?」
刺された人物は力なく崩れ落ちる。
首無しアルザスは周りに居たアサシン達をためらいなく殺した。


最後に自分の首を拾い上げてくっつける。


「私は・・・首を刎ねられたくらいじゃ・・・死なないよ・・・」
まるで・・・呪われた動く死体みたいだな・・・




「きゃあああ」




女性の悲鳴・・・


一般人?いや・・・わずかにラグベールの匂いがする・・・
スパイか内通者か・・・


じゃあ・・・仕方ない・・・


やめろ・・・彼女は一般人だ・・・


路地に追いつめた。


やめてくれ・・・


無力な女性に情け容赦なく剣を振り下ろす。



剣がガシャリと弾かれる。
空中に浮遊する剣・・・サリアの魔法だ。
後ろからサリアが、ため息をつきながら現れる。


サリア「事情はなんとなく察するが・・・はしゃぎ過ぎじゃ」

アルザス「・・・」

サリア「酔いが冷めた・・・帰って飲みなおすぞ、アルザス



・・
・・・
・・・・・
アルザスは深く息をつく・・・
そしてゆっくりと・・・言葉を吐き出す・・・




「サリア・・・頼みがあるんだ・・・」





その夜は星が綺麗な夜だった。








「私はアクアローナを騙している」
自分の殺戮衝動を満たすために・・・
彼女達を利用している・・・
奴隷で・・・既に死体の・・・自分ごときが・・・


わかっている・・・自分は一刻も早く消えるべきだって・・・





コロセ・・・ラグベールノニンゲンヲ・・・コロセ・・・


仕方ないよね?