脛蹴り 生きてさえいれば

脛蹴り 生きてさえいれば




最初の修行の続き・・・




師匠に脛を蹴られて、立てなかった頃、
今日も師匠の姿を見かけるたびに
膝が震えて正座の態勢になる。



「ははは・・・よく効いているようで何よりだ」



くそう・・・
頑張ってみるが、頑張ろうとするほどに
膝の力は抜けていくように感じた。



「最初に言った通りだ、心に傷を負って二度と立ち上がれないこともある」
・・・え、マジで、そんなこと言ってたっけ?




師匠は微笑んで、ケイシュウの頭を撫でる。
「ゆっくりでいい、ケイシュウ、私はお前が立ち上がれるようになると信じているぞ」
なんだか頭がくすぐったい。



「なぜなら、お前は強くなる脛をしているからな」

師匠は正座するケイシュウの脛のあたりを眺めつつ、にやけながら静かにでつぶやく。
・・・もっと違う誉め言葉ないのかよ。あとジロジロ脛を見んな、なんか怖い。





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帝国軍基地、
ヘクトルはベットから起き上がる。
川に落下し、木を失っていたが、なんとか部隊に回収されていた。
奇跡的に大きな外傷はなかったそうだ。
特に敵に蹴られた脛・・・あれだけの激痛が走ったにもかかわらず、内出血すらしていない。


異変に気付いたのは怪我が癒え始めた数日後だった。


銃の引き金を引くことが出来ない・・・
構えるも・・・

・・
・・・
・・・・

膝が震える。




退院日、



ヘクトル殿、お加減いかがですか?」


びしっと敬礼する女性


「かしこまらないで下さい、クルーガー少尉」


「軍を退役されてからも、我が帝国のために尽力なさっているとお噂はかねがね・・・貴官は我々の誇りであります」※雇われ工作員の位置づけ


「ははは、こんな年寄りを褒めても何も出ませんよ」


「それにしても、ヴェゼル中尉のあなたに対する振舞いは目に余るものがあります、断固抗議すべきかと」


「やめておきなさい、こんな老兵のために、あなたの出世の道を閉ざすことはありません」


『既に銃を持てない、使い物にならないな』
ヘクトルの状態を聞いたヴェゼル中尉の言葉だった。


クルーガーは納得いかない様子であったが、
ヘクトルの心情を察し、これ以上の言及を避けるようだった。


「これもいい機会かもしれません、・・・ヘクトル殿、あとは若い我々に任せて、引退なさってください」


「ふ・・・今更、こんな老いぼれにどんな居場所があるというのか」


「生きてさえいれば楽しいこともありますよ・・・きっと」
にこりとほほ笑む。
裏表のない好意を感じる笑顔だった。



街をぼんやりと歩く。


「生きてさえいれば・・・か」
その言葉はヘクトルの胸に刺さる。

その言葉は・・・
いままでたくさんの者を葬ってきた私に対して
あまりにキツイ言葉ですな・・・



失くしていたはずの罪悪感とおぼしき感情が
堰を外した水の様にに自分の中に流れ込んでくるのを感じる。


礎いしずえ・・・おこがましいことだ・・・
やはり、歴史とは生きる者が積み上げるモノ・・・
私はそのチャンスを奪って来たのだ。


・・・


潮時か・・・



もうろうとした意識の中、人気のない郊外の廃墟に向かう。
その場所に屈み、こめかみに銃を押し付ける。



パン!



乾いた音が響く。
ヘクトルの撃った弾は彼の頭を外れていた。

「己の幕引きすらできないとは・・・本当に使い物にならない」

ヘクトルはその場にうずくまる。









クルーガー少佐の実体験


ホント自分気弱いんで
キャラ変わっとる・・・


ちょ、セクハラだ




足喰い