オリジナル小説

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3日間
ケインズはとても立派なホテルの部屋を用意してくれた。
だが、キロは死刑宣告を受けた囚人のような気分だった。

使い魔「ああ、今までの、貧乏生活からしてみれば夢のようですね!!」
キロ(他人事とばかりに楽しんでるな・・・)



こちらの動きはきっちりと監視されていた。あのケインズという悪魔にも常に護衛が付いているだろう。何人もの護衛に囲まれればキロだってひとたまりもない。悪魔に対しては絶対的に強い白い剣だって対人戦ではただの古ぼけた剣なんだから・・・


キロは気晴らしにあたりを散歩した。懐かしい場所なんてもうどこにもなくなっていた。いまだにジーメスの村なんて呼ばれているけれど、ジーメスの街って言った方が正しい気がする。


ふと橋の下に物乞いの人がいるのが目についた貧富の差が激しいのだろうか・・・




部屋には、豪華な料理が運ばれてきた。
キロはとてもじゃないが食べる気にはならなかった。


天使「・・・・おいしい。」
いつのまにか天使が料理を食べているが・・・






キロは眠れなかった。
キロ(単純なことじゃないか・・・死にたくない・・・いっそ、売ってしまう、よしそうしよう。)



3日後、昼食の席・・・
グラスには高いワインが注がれていた。
ケインズの後ろには5名の傭兵、いずれも手練れだろう風格があった。
ケインズ「まずはお飲みください。取引が無事済み次第、お食事を準備いたします。」


ケインズ「先日は言い値で買いましょうといいましたが、こちらから値段をご提示させていただきたいと思います。あなたは、謙虚な方なのでその方がこちらの本気度もわかっていただけるかと思いまして・・・」



「3千万ユルドでいかがでしょうか?」


3千万・・・一生稼げる額のほぼ3倍・・・一生遊んで暮らせる額じゃないか・・・
それだけあれば1割くらい孤児院に寄付したっていい、きっとマクセル院長は認めてくれる。貿易都市でめちゃくちゃにした倉庫の損害費だって弁償できるかもしれない・・・




メガロにだってミリアにだって胸を張って再会できる・・・




キロの顔は緊張から一転ゆるんでいった。
「さて、返答をお聞かせ願いますか?」


キロ「・・・・はい、売ります。」




使い魔「・・・ええ、キロさんそれは困ります。あのぜひとももう一度お考えを改めて・・・」
使い魔はセリフをすべて言い終わる前に強面の傭兵にしょっぴかれ別室に連れていかれた。




「賢明なご判断です。」
ケインズはにたりとした笑いを隠しきれていなかった。




キロは白い剣を長いテーブルに置いた。
執事のひとりが剣を回収しようと近づいた。



・・・・お金・・・お金があれば・・・グラナ火山のシスターさんにも・・・・・・



パリン!!

窓からガラスが割れる音が響いた。
キロがワイングラスを窓に投げつけた音に部屋の全員の注意が向いたその瞬間・・・
キロは白い剣に飛びついてテーブルの上を走り、ケインズにとびかかった。



間一髪ケインズは剣をかわし、窓を割って中庭に逃げ込んだ。
キロ「ちっ・・」



ケインズ「誰か!!暗殺者がここに!!!」
すぐに傭兵がキロを取り囲んだ。
キロ(・・・・)



キロの周りには20名ほどの傭兵がきっちりと取り囲んでいる。
ケインズ「その狼藉物を殺せ。原型も残すな。」









大勢の傭兵がキロを散り囲み、攻撃する。
槍がキロの腕をかすめた。キロの腕から血が流れる。








俺何をやっているんだろう・・・
あのお金があれば一生遊んで暮らせただろう。お金よりも価値のあるものなんてこの世にないのに・・・ないのに・・・


キロ「・・・・俺に・・・近づくな!!!」


警備兵のひとりの懐から札束がふわりと宙に浮かんでキロの白い剣に吸い込まれていった。
「お、俺のお金が・・・」
続いて、他の兵士の懐からもどんどんお金が飛び出し、
キロの白い剣に吸い込まれていく。




キロ(そうか、悪魔の作り出したお金はただの魔力の塊だ。白い剣が魔力を吸い取るから・・)





キロ「俺に近づいた奴は金をすべて失うぞ!!!」


兵たちはキロのセリフにおののいた。
そして、武器を放り出して、全員が逃げ出した。

ケインズ「おい、こら、行くな、お金は払うから!!」
ケインズは手からお金をわんさか出したが、キロがそれをすべて吸い取った。




兵士は一人残らず逃げ出し誰もいなくなった。
キロ「やっぱり、お金は人を簡単に操れる・・・まさしく神ですね・・・ケインズさん」
ケインズ「・・・・」

ケインズは大きな化け猫に姿を変えた。


キロは多少苦戦したものの、順調に悪魔の魔力を吸収していった。

ケインズ「あたしは神だ。神に逆らう愚か者め!!」
魔力を抜かれたケインズは小さな子猫の姿になった。


そこへ猫耳猫尻尾の執事服の女性が現れた。
「ああ、ご主人様、おいたわしや」
女性は猫を抱きかかえた。


キロ「あなたは?」


「わたしはご主人の執事兼使い魔でございます。」
キロは構えた。
攻撃されるかもしれないと思ったからだ。
「100年間の封印ののち、魔力に取りつかれたのかご主人様は制御がきかない様子でした。今回のことでいいガス抜きになったことでしょう。」



「今回のことでたくさんの方が財産を失われます。一刻も早くここを離れることをお勧めします。」



「それでは、またの機会にお会いいたしましょう。」
執事服の女性は去っていった。



キロは忠告に従い大急ぎでジーメスの村を後にした。


ぐー
安心したらお腹が空いてきた。
どうせなた意地を張らずにあの豪勢な料理を食べておけばよかったとキロは少し後悔した。



突然、大量のお金が喪失したら村は大混乱になるだろう。
久々に帰った故郷でキロがやったことが村を崩壊させることだなんて・・・どちらが悪魔か本当に分からない。