オリジナル小説

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どんよりと曇り空だった。風は全くない。このような天気のことを嵐の前の静けさというのだろうか。


アーシェは、背負ったキロを運んで
カルデラ城と城下町の郊外までやってきた。
そして、ゆっくりとキロを木の下に寝かせた。



使い魔「ご主人様、白い剣をもって来ました。」
アーシェ「ご苦労様」



アーシェ「・・・さて」
(魔女モールスは「助かるには心臓を取り出して直接魔力を吸い出すしかない」と言っていた。)


キロは目を覚まさない。
魔力が心臓を圧迫してもうキロの命は限界ギリギリなのだろう。


アーシェ「今・・・楽にしてあげる。」
使い魔「ご、ご主人?」


アーシェは持っていた短剣でキロの胸を突き刺した。
使い魔「ご主人!!!何するんですか!!!」
血がすごい勢いで飛び出し、手が真っ赤に染まったが、かまわず掘り進めて、
キロの心臓を取り出した。
心臓は真っ黒で魔力の色に染まっていた。


アーシェ「手に持ってるだけでわかる・・・すごい魔力の塊・・・」


心臓から漏れ出した魔力がどんどんアーシェの体に染みわたっていく。
悪魔12匹分の魔力は、アーシェの体にすべて吸収され
キロの黒い心臓はもとの色に戻った。


アーシェはすぐさま心臓を元の位置に戻し、
時間を巻き戻して傷口を塞いだ。
アーシェ「これで、もう、魔力に侵されて死ぬことはないわ。」
そして、キロの体の上に白い剣を置いた。
アーシェ「約束、だったわね・・・」
アーシェは使い魔の首輪を外した。
アーシェ「これで、自由よ」
使い魔「・・・はぁ、ありがとうございます。」



使い魔「・・・ご主人様、これから、何をされるんです」
アーシェから感じる禍々しい魔力にビビりながら
恐る恐る尋ねた。



アーシェ「・・・あなた、カルデラ国に100年前に存在したって言われる神剣アーシェ卿って知ってる。?自分の身勝手な行動のために父親を死に追いやった親不孝な娘のことよ。
そのアーシェがもし生きていて100年の封印から解かれたら
どう思うかしら?」


使い魔「・・・父親を生き返らせたいと思うでしょうかね。」


アーシェ「でも、その娘には、指定した範囲の時間を巻き戻すことしかできないの
そのためには、膨大な魔力が必要だった、一緒に封印されていた悪魔12匹分に相当するような大きな魔力、そして、この国のすべての時間を100年間巻き戻せばお父さんは生き返ると思わない?」


使い魔「そんなことをすれば、今この国に生きている人々は・・・」


アーシェ「全員、存在すらなかったことになるわね・・・」


使い魔「はは、悪魔のような残虐な行為ですね。」




アーシェ「そうね、だって私は・・・もう悪魔なんですもの。」





使い魔はそのままアーシェを見送った。
下級悪魔でも、悪魔ならば時間の巻き戻しによる影響は受けないそうだ。
自分に被害がないならば、争う必要もない。
というか逆らったらつぶされるだけである。



アーシェは最後にキロを見た。
アーシェ「・・・いままで、本当にありがとう。・・・さよなら」



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キロは気が付いた。
心臓の痛みが消えて妙にすっきりしている。
横に使い魔が座っていた。
使い魔「キロさん、目が覚めましたか、どうです。首輪がなくなったんですよ、ようやく自由になれました。」
キロ「へー」
キロ(テンション高いなぁ)



使い魔「ご主人様から最後のお言葉です。
『私の魔術の影響を受けないために白い剣を手放しては駄目、そして、他の国に逃げた方がいい、』と」
白い剣はキロの腹の上に置かれていた。



キロ「天使は何をするって言ってた?」
使い魔「いや、聞かないほうがキロさんのためですよ・・・」
キロは天使のことを考えた。なんだか嫌な予感がした。
使い魔のほっぺたを引っ張りながら
キロ「言えよ」
使い魔「はい」




カルデラ城の中心からおぞましい圧迫感
カルデラの国境付近に薄いもやがかかり始める。



キロはおかしな現象が起こっている中心、カルデラ城に向かって、
白い剣と使い魔もついでに掴んで、走り始めた。
使い魔「なんで、私まで」