オリジナル小説

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キロはこの町を発つ前にシルさんの定食屋で晩飯を食べていた。
シルさんは仕事をしながらぼそぼそと最近の近況を話してくれた。


シル「最近、別人だって言われるくらい仕事のミスが減ったのに、また、いつも通りに戻っちゃった。」
キロ「・・・・」


友達のことも話してくれた。


シル「夫を亡くした親友は、その夜尋ねたら、わんわん泣いてた。でも、一度始めた仕事を放り出せないから今日も働いてる。私、ナラが無理して頑張ってるのに別人みたいになったなんてひどい女よね?」

使い魔「そうでもないですよ」

シル「そうかなぁ・・・おっとそろそろ仕事に戻らなくっちゃ、また店長に怒られちゃう」


アーシェは夕食を食べるキロを見ていた。
ぐーとアーシェのお腹は鳴った。
悪魔であるアーシェは、睡眠も食事もいらないはずなのに最近は我慢できなくなっていた。
アーシェ「ここの料理おいしそう・・・」


シル「・・・・・」


その様子をいぶかしそうに見つめるシルさん

シル「ねぇ、あなた・・・」
アーシェ(!しまった見つかった・・・)


アーシェ「あの、私は・・・」
シル「待って、みなまで言わないで、わかってるわ」
アーシェ「は?」
シル「前回キロ君が店に来た時も帰りにあなたがこそこそキロ君を尾行するのが見えたわ、私ぴんときたの、若いころは、好意を表に出すの恥ずかしいって思うけど・・・けどね、あなた、勇気を出さなきゃダメよ、ちょっと来なさい」

シルは強引にアーシェの手を引っ張った。
アーシェ「あの、ちょっと・・・」



キロ「ここの料理本当においしいよなぁ・・・」
使い魔「ほんとですよねー」



シル「キロ君、キロ君に可愛いお客さんよ」
シルは二人席の正面にアーシェを座らせた。
キロはあまりの突然さに持っていたパンをポロリと落とした。使い魔はキロの足元でぶるぶる震えている。

シル「じゃあ、あとは若い二人に任せるということで・・・頑張ってね、キロ君!」
シルさんはバチンとウインクして仕事に戻っていった。


アーシェは少し顔を赤くしてもじもじしていたが、キロにそれを見る余裕などなかった。


白い剣は棚の上に置いてある。
キロが白い剣に手をかける前に容易に殺されるだろう。
キロは顔面蒼白になりぶるぶる震えた。

アーシェ(うう、すごくビビられてる、私はそんなに恐ろしいだろうか?)

なんとか場を和ませないと
アーシェはパンの一切れを食べた
アーシェ「このパンおいしいな、キロの料理もおいしそうね」


キロ「シルさーん大至急、俺と同じ料理持ってきてーーー!!!」


シル「はーい、わかったわ、うふふ」
遠くでシルさんの声がした。
気を使ってこっちに顔を出さないようにしているらしい。
むしろ来てほしいとキロは切望した。



まずは、敵意がないことをアピールしないと始まらないわ
アーシェ「キロ!!・・・・」
キロ「・・・・」
アーシェ「私はもうあなたの職を奪ったり、心臓をナイフでえぐったり、脇腹を刺したりしない」
キロ「・・・・」
アーシェ「・・・・」


キロ「・・・・そう」


キロの顔がいっそう白くなった。緊張のためか冷や汗をかいている。
ああ、ますます空気が重くなった。
しまった、逆効果だ。


シルさんが料理をもって来た。
キロの緊張っぷりを見てくすくす笑っていた。
すごく別に意味に勘違いされている気がするが、
気を使ってすぐにもどってしまった。
むしろもっといてほしいのにとキロは切望した。


アーシェ「おいしい、私最近すごくお腹が減るんだ・・・」

だから、お前の心臓を食べてしまおうか、げへへへ
キロは、そのセリフからそんな姿を想像した。


シルさんは店を出るとき満面の笑みで送り出してくれた。
シル「その子をちゃんと定期的にディナーに誘ってあげるのよー」


キロは早足でずんずん歩いて行った。
アーシェは後ろからついてくる。

アーシェはイデアの言葉を思い出していた。
イデア「大切なものはそばに置いておきなさい。でないとまた失うわよ?」


アーシェはキロにしっかり対峙した。
まっすぐキロを見て叫んだ。

アーシェ「キロ!!」

アーシェ「・・・私はキロにひどいことをした。あなたの人生を滅茶苦茶にした。」


キロ「・・・・・」


キロはなんとなくは感じていた。

あのままカルデラにいてもいつかは首にされていたということを

そして、あのとき、アーシェに声をかけてもらえなかったら・・・自分で自分の命を絶っていた可能性さえあったことを


キロ「気にすることなんて何一つない、ここから先は俺だけの問題・・・だから気に病むことなんてこれっぽっちもないんだ」

アーシェ「・・・・」

キロ「アーシェ、あんたは、カルデラの英雄だ。たくさんの人があんたに救われたんだ。だから、もう自由に生きていいんだ。俺なんかにかまって時間を無駄にする必要なんてない。」

アーシェ「・・・・」


キロ「だから・・・だから・・・」







アーシェ「・・・キロ・・・あなたの命は私が救うわ」







アーシェははっきりとキロを見て言い放った。

キロはその強い意志に気おされて何も言えなくなった。

アーシェはまたふっと消えていなくなってしまった。






使い魔「いやあ、びっくりしましたねぇ」

キロ「お前、どこいたよ」



キロは次の朝町を出発した。

目的地のバルサまではまだ遠い。