新キロと13匹の悪魔

新キロと13匹の悪魔



早朝・・・目が覚めた。



一晩同じ部屋に宿泊するというイベントがあったにもかかわらず、
何の進展もなかった。


やっぱり、私には女としての魅力が・・・



いや、何を期待しているのだろう、キロにとって私は、仕事も居場所も命さえ取り上げようとしている悪魔なんだから


アーシェは寝ているキロのマントを深くかけてあげた。





キロは夢を見る。
毎日見る夢だ。なんなら昼間にも同じ映像が浮かんでくる。


黒いべっとりとした塊に自分が飲まれていく夢、日が経つほどにリアルに現実感を持って迫ってくる夢・・・


誰かが自分の手を掴んだ。ぐいぐいと引っ張って押し上げていく。誰だ?・・・自分なんかを気にかけて救い上げる人物は・・・その人物は銀色の髪の小柄な・・・




目が覚めた。そこにはアーシェが支度して髪を結んでいるところだった。

アーシェ「おはよう。キロ・・・・まだ朝早いからもう少し眠っていればいいわ」

キロ「・・・・あ・・ああ」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



法律・・・・



それは人が長い歴史の中で決めた善悪の区別、ある時代には為政者が自分勝手に決めていたものであるが今は違う。しかし、厳密な線引きはできず、裁判という形で人の主観に左右される。それでは
やはり、善悪の区別などないに等しいのかもしれない。



司法都市クライスト


この都市はすべての善悪が裁判所という建物でおこなわれ、犯罪のもっとも少ない都市として有名であった。



使い魔「そしてこの町は、料理屋やグルメでも有名なんですよ」
アーシェ「・・・ふふ、料理の味付けもまた厳格というわけね」


キロ(すごい、はしゃいでいらっしゃる・・)


キロ「俺はなんかこの町落ち着かないんだが・・・」
使い魔「キロさんカルデラでは指名手配犯ですもんね」

キロ「ああ、そうだよー」


アーシェ「大丈夫よ。キロ、・・・キロは悪いことを何もしていないもの」
キロ「・・・・」
キロは今朝の夢を思い出した。



アーシェと使い魔の二人は市場の料理を見て回っていた。


キロは気がつくと怖い顔をした大男二人に連行されていた。

キロ「は・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



法廷・・・


立派なものだなぁ
カルデラ城で斬首される前も行った事のない法廷。
って感心している場合か


「静粛に、静粛に さて被告人、私は裁判長のジャスティだ。これより被告人 キロ=エバンスの裁判を始める。」



ジャスティ「まず、始めにカルデラ城における『宝物庫の窃盗事件』について被告人は賊を取り逃がしたとあるが事実か?」


キロ「・・・・ああ事実だ。だが、そのせいで職を首になったぞ。」


ジャスティ「君は賊にのされたとあるが、・・・本当かね」


キロ「どういう意味だ?」


ジャスティ「君には賊を城の宝物庫に手引きしたという疑いがかかっておる。」

キロ「は・・・」


ジャスティ「盗品リストの中には国宝の『白い剣』が含まれていたが、君の持つその剣は何かね。」

キロ(・・・・そうきたかー)


「あれは記録に残る白い剣そのものに間違いありません。」

「動かぬ証拠ですね」


異議あり

メガネの頼りなさそうな女が手を上げた。

キロ(おお、これが弁護士というものか。被告人を一方的な尋問で冤罪にされないようにする役割の人だと聞いたことがある。)


マシュ「そんな盗品をぶらさげて歩く間抜けな盗賊がいるとは思えません。」

「だが現にいるじゃないか」

キロ(もうちょっと気の利いた言い訳してくれよ)



キロ(・・・ていうか、それ全部、アーシェと使い魔にだまされてやったことじゃねーか。全部あいつらのせいじゃないか・・・だったら、だったら)



ジャスティ「被告人、この件についてなにか言い分はあるか」

キロ「・・・ありません」


キロ「というかあんたらなんなんだよ。俺の罪はカルデラで起こしたんだからカルデラに送還して、カルデラの法律で裁かれるのが筋ってもんじゃないのか。内政不干渉条約はどうした。」


ジャスティ「ここにカルデラからの書状がある『キロ=エバンスを捕らえ次第、クライスト中央裁判所の裁判において厳粛に罰して欲しい』とかかれている。」


キロ「うぐ」



ジャスティ「次、カルデラ城におけるコスカ王妃の殺害について、この男は前々よりコスカ王妃の暗殺の首謀者として指名手配されていた。そして、捕縛された。しかし、処刑の当日、断頭台を振りきり近くにあった剣で王妃を殺害、その後、城から逃れたそうではないか。」



まわりの人々がざわついた。


ジャスティ「これはきわめて劣悪極まりない重罪だ。」

マシュ「異議あり。コスカ王妃は傍若無人にまわりの反勢力を処刑していたという噂もあります。」

ジャスティ「なるほど、その反勢力から多額の資金援助を受けていたという可能性も考えられる。」

マシュ「異議あり。断頭台を振り切って王妃を殺害できるような警備体制であったとは思えません。やはり何らかの濡れ衣を着せられている可能性が高いと思われます。」


ジャスティ「なるほど、何者かが暗殺を手引きした可能性が高いということだな。可能性が高いのは処刑にかかわった人物ということか・・・被告人の元職場の人間もその場に多く居たようだし。」


キロ(・・・やばい、兵士長や他のみんなが疑われる。)
キロ「いや、あれは俺ひとりでやったことだ。」


マシュ「は・・・」



ジャスティ「被告人の罪状の数々は目に余るものがある。つい最近も年端も行かぬ銀髪の少女と同じ部屋で寝泊りしていたとの報告もある。」


「なんて卑劣な・・・」


キロ「って同じ部屋に泊まっただけだ。何もやましいことはない。」


マシュ「異議あり。流石にそれはちょっと弁護しきれないです。」


キロ「弁護して下さい。」






ジャスティ(ふむ、ここまでうまく行き過ぎるとつまらないな・・・何か他にこやつの心を抉るような罪はないものか・・・)