はたく 未来タイムスリップ編
ちょうどいい壁
シン・クマについて
それは、熊の形をしたバイオ兵器で傍若無人に建物を破壊して更地にするその姿は古典的な『怪獣』と呼ぶにふさわしかった。ミサイルや爆撃などあらゆる攻撃手段が試されたが効果が薄かった。
核兵器に頼るしかない、どの科学者もその結論にたどり着いた。
全世界のみんなが国境を越えて協力し、綿密に作戦がたてられた。
そこには一体感が生まれ、世界が平和になるきっかけになるのではないかとさえ誰もが思った。
結果として・・・核を落としても無傷だった・・・
責任を追及する声があがり、誰もがその問題から目を背けた。
誰もが・・・匙を投げた・・・
人類が奴に対抗する手段はただひとつ『逃げること』だけになってしまった。
潮理「・・・というわけ・・・なんだ。」
孝一は潮理のたどたどしい説明を聞いていた。とても孝一になついているようで、ちょこんとひざに座ったりしている。
もう壁殴りは・・・やめた・・・
孝一はむかむかしていた。
心のどこかで・・・やっぱりな・・・っておもってしまった・・・そんな自分も許せない。
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けたたましいサイレンが響き渡る。
シン・クマ警報発令!シン・クマ警報発令!
シン・クマがこの地域へ向かってきています!
市民のみなさんは落ち着いて速やかにシェルターへ避難してください!
あらかじめ準備していた避難セットを持って家の戸締りをする。
家の鍵を閉める大海は不安そうだった。
大人孝一は大海の手を優しく握る。
「心配するな・・・この家は壊れてしまうかもしれないけど・・・俺は家族を守り続けるからな・・・」
大海「孝一君・・・」
潮理「お父さん」
大海と潮理は大人孝一を抱きしめる。
母「孝一・・・立派になって・・・」
孝一は静かに黙ってその幸せ家族に別れを告げた。
「・・・そっちは避難所じゃないぞ」
孝一「今日はありがとうございました・・・用事を・・・思い出したので・・・」
避難する人々と逆の方向にゆっくりと歩く・・・しばらくすると誰もいなくなった・・・
誰もいなくなった街・・・壁が殴り放題だ・・・
今日は・・・
調子がいいな・・・もっといい壁は・・・ないかな・・・
なんだ・・・近くにちょうどいい壁があるじゃないか
しかも・・・ご丁寧に・・・こっちへ向かってきてる・・・
孝一から・・・少しづつ白い煙が立ち上っていた・・・
【未来タイムスリップ編】ヤシガニ作戦
ヒーロー気取り
同街の高校のグランドにはたくさんの軍用車やテントが設営されていた。
シン・クマ対策部隊、部隊長 テスラ=エレマーレ
テスラはホワイトボードに書かれた複雑な数式を見て頭を悩ませていた。
物理先生『というわけで私の仮説では、波長の合った大きな衝撃が加われば、シン・クマは小さいクマに分裂する。そうすれば通常兵器でも鎮圧が可能だ。』
※英語
テスラ『あの・・・プロフェッサー潮見、核兵器でも無傷だったんですけど・・・』
物理先生『それは波長が合っていなかったのだろう。私はそう推測している。』
はあ・・・このひとの理論は抽象的すぎてわからん・・・
物理先生『そうだな・・・例えるなら・・・もっとこう・・・お腹に響く様な衝撃が効果的だ。』
お腹に響くねぇ・・・約一名の顔が思い浮かぶけど・・・
テスラはため息をつく。
テスラ(せっかく、隊長クラスまでのし上がれたのに・・・このままでは・・・責任をとって降格させられかねないですね・・・)
テスラはテントの外に出る。
隊員がびしっと整列していた。
『隊長!シン・クマ来襲まであと20分です。・・・ご指示を・・・』
テスラ『あー・・・そうですね・・・そろそろ退却の準備を・・・・』
グランドの外・・・白い煙を立ち上らせる孝一が通るのが見えた・・・
テスラ『・・・と考えた時期もありましたが・・・総力戦の準備をお願いします。』
『は?いえ・・・しかし』
テスラ『総員、直ちに戦闘準備!』
『は!』
やる気を完全に喪失した上層部の許可を取り付けてテスラはほほ笑む。
各機関に媚びを売るために各機関のアルファベットの頭文字を取って
本作戦を『YASHIGANIヤシガニ』作戦と名付けます!
ふふ・・・勝ちましたね・・・
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孝一はズシンズシンと足音のする方へふらりふらりと歩いていく。
後ろから・・・誰かが来るな・・・
大人孝一が息を切らしながら孝一の後ろに立っていた。
孝一「・・・」
大人孝一「・・・どこに行くんだ・・・避難もしないで・・・」
孝一「・・・近づいてくる巨大な壁を殴りに行くだけだ。」
大人孝一「シン・クマと戦いに行くのか?・・・何を考えてるんだよ・・・あんな怪獣にお前ひとりで勝てるわけないだろ?」
大人孝一「あーこれは大人の意見として言わせてもらうが・・・昔の俺もお前にそっくりだった。毎日毎日壁をひたすら殴ってた。だがそれが何になる?もっと他のことに時間を使った方がいい。」
孝一「・・・」
大人孝一「いい加減、高校生ぐらいなんだから・・・ヒーロー気取りの子供みたいな真似は止めろ」
孝一「・・・」
大人孝一「・・・」
孝一「ヒーロー?・・・俺は『俺の殴りたい壁』を 横取り する奴を許せないだけだぜ。」
大人孝一「そっちかよ!」
孝一はふーっと長く息を吐いて改めて大人孝一を見た。
孝一「いいから・・・黙ってみてろ・・・偽物」
ちくしょう・・・勝手にしろ・・・
大人孝一は孝一に背を向けた。
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小さい分裂シン・クマ
昔の俺は・・・馬鹿で・・・無鉄砲で・・・考えなしで・・・そんで・・・すげえ強いな
あとは俺に任せろ
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気が付くと・・・映画館にいた・・・映画の字幕にFINと書かれていた・・・
大海は孝一の様子がおかしいことに気づく。
大海(あれ、普通の私服だったのに・・・ジャージになってる・・・しかも・・・満身創痍・・・)
映画中に席を外した?いやいや真ん中席なのに無理なはず・・・
孝一はあれは夢であると信じたかった、しかし、自分がジャージ姿であることと置いてきたジャージ料金がなくなっていることが実際に起こった証拠であるようにも思えた・・・
公園のベンチでアイスを食べる二人
孝一「悪いな・・・映画見てなくて・・・」
大海「・・・ううん・・・あの・・・何かあったの?」
孝一「信じられないかもだけど・・・10年後の未来の世界にタイムスリップしてたんだ・・・」
ああ、こんな滑稽な話誰が信じるんだろう・・・
大海「・・・ええと・・・私は・・・信じるよ」
異世界もちゃんと真実だった実績があるし・・・
大海は・・・疑わないんだな・・・『はたく』の話だってちゃんと聞いてくれる・・・信じてくれる・・・
孝一はなんだか胸が熱くなるのを感じた
大海「・・・未来の世界は・・・どうだった?」
ああ・・・それは・・・特に変わってなかったな・・・俺と大海が・・・け・・・
孝一は言葉を止める。
上目遣いに覗き込む大海にドキッとした。
孝一「・・・やっぱり・・・言いたくない。」
大海(こんなに狼狽える孝一君も珍しいな・・・)
大海はいい奴だ・・・いつか『はたく』と大海を天秤にかける日がきたら・・・俺はどうするだろう・・・そんなの迷わず・・・
きっと・・・両立する道を選ぶかな・・・
少し弱気になる自分が情けなかった。
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未来の世界にて
大人孝一「昔の俺はもう少し思慮分別があった気がするんだが・・・」
灯り(・・・『そんなことないよ』って言ったら傷つくかな・・・)
潮理は瓦礫を上り下りして遊んでいるようだった。
大海はその様子を眺めながらさりげなく聞く。
灯り「・・・どうして壁殴りをやめちゃったの?」
孝一「俺も大人になったからな・・・まあ、一番の理由は、潮理が はたく に憧れて真似したら良くないからかな・・・」
灯り(その心配は必要だろうか・・・)
孝一「・・・」
灯り「・・・」
灯り「それに私は・・・知ってるよ・・・まだこっそり壁殴り続けてるでしょ・・・」
え、なんでそれを・・・
潮見先生「ああ、愉快だ・・・世界がどうしようもないという問題が生み出されたわけだ。」
問題は・・・必ずしも・・・時間内に解けるとは限らない。
いや、時間が過ぎればギブアップさせてくれるテストというのは
本当に優しいのかもしれない。
本当の問題というのは、誰もが、そして自分もが、それに対して諦めてしまう。
だが、そこには問題があり続け・・・常にそれを突きつけられながら生きていく。
首都大学物理学科
先生、ついにシン・クマを無効化できる光線を開発しました。
10時間連続で照射し続ければ・・・分解できます。
10時間?
うん、無理だな・・・
窓の外・・・白い煙をもうもうと立ち上らせる孝一が通る・・・
潮見「いや・・・その光線準備したまえ・・・解決方法のほうからこちらにやってきたようだ・・・」