はたく 壁は・・・

大人孝一は避難所で考える・・・




もしかして・・・あれは・・・過去の俺だったのではなかろうか・・・
もう忘れかけているけど・・
そうだ・・・あれは10年前に・・・そんな不思議な出来事を経験したような気がする・・・


助けに行かなきゃ・・・


大人孝一「・・・ちょっと行かなきゃならない場所が・・・」

大海は耳打ちする。

灯り「うん、あの子を助けに行った方がいいよ。なんだか・・・昔の孝一君ぐらい危なかしくて・・・不安だから・・・」

ああ、不安がられていたのか昔の俺・・・






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孝一は歩く



そういえばユズハ師匠と修行してたときもそんな話題になったことがあった・・・
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ユズハ「10年後の先読みはできるかしら・・・」


また唐突に・・・


大海(10年後は・・・孝一君と・・・可愛い娘なんか・・・いたりして・・・)
下を向いて赤面する大海・・・
大海ははっと我に返る。


大海「ううん、やっぱりユズハ師匠みたいにかっこいい大人に」
孝一「・・・それは止めた方が」
ユズハ師匠「何か言ったかしら?」



孝一「10年後はきっと『はたく』が大流行してみんな壁を殴っているはずだ。」
大海(それは怖い気がする・・・)
ユズハ「それは恐ろしいデストピアね」

言い過ぎじゃないかな・・・

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って思っていたが・・・実際は10年後の俺すら・・・なんてことだろう・・・







目の前には巨大な熊が立ちふさがっていた・・・
孝一(すごいデカいな・・・見上げたら腰が痛くなりそうだ・・・)






シン・クマは目の前の人物に戸惑った・・・



小さな人間ひとりだった・・・取るに足らない小さな虫けら同然の人間・・・しかし彼の本能は・・・激しく警戒音を鳴らした。


一度、後退して低い姿勢を取る。激しく揺れる地面・・・しかし、その人物は意に返さず、静かにその場にたたずんでいる。シン・クマは一気に手を叩き付ける。




どうしてシン・クマと戦うのか・・・
困っているみんなを助けるため?・・・

違うな・・・

きっと心の底ではそう思っていない気がする。




叩き付けた手は・・・大きく宙をかく・・・大きく姿勢を崩したシン・クマが仰向けに転倒する。




孝一は思い出す・・・おぼろげな壁を壊した人物のことを・・・




孝一(・・・壁は・・・そんな風に・・・壊していいものじゃないんだよ・・・)





孝一は・・・目の前の大きな毛むくじゃらの壁に・・・拳を撃つ
お腹に響く・・・振動が周囲に響き渡った





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シン・クマは完全に動きを停止した・・・背中の方からわらわらと小さなものが動き出す・・・

分裂した一部の小さなシン・クマであった。
彼らはまだ戦意を失っておらず孝一を包囲する。



孝一(・・・ちいさいのくらい余裕・・・って・・・あれ?)
くらくらと眩暈がする・・・ガス欠?・・・

孝一は失いかけの意識の中で誰かの声を聴く・・・誰だ?・・・




大人孝一は倒れかけた孝一を抱きとめる。



ふらふらしている昔の自分を見て改めて思う。
・・・昔の俺は・・・馬鹿で・・・無鉄砲で・・・考えなしで・・・
そんで・・・すげえ強いな




あとは俺に・・・任せろ・・・




意識を失う直前に・・・誰かが戦っているのが・・・うっすらと見えたのを覚えている。















孝一(もしはたくが大流行していれば・・・きっと彼らはシン・クマを許さないだろう・・・あれだけ大量の壁を壊すとか・・・もう戦争だよ。)






やる気を完全に喪失した上層部の許可を取り付けてテスラはほほ笑む。
各機関に媚びを売るために各機関のアルファベットの頭文字を取って
本作戦を『|YASHIGANI《ヤシガニ》』作戦と名付けます!




孝一はズシンズシンと足音のする方へふらりふらりと歩いていく。
後ろから・・・誰かが来るな・・・



大人孝一が息を切らしながら孝一の後ろに立っていた。



孝一「・・・」
大人孝一「・・・どこに行くんだ?避難もしないで」



孝一「・・・近づいてくる巨大な壁を殴りに行くだけだ。」
大人孝一「シン・クマと戦いに行くのか?・・・何を考えてるんだよ。お前みたいな子供ひとりで何とかなる問題じゃない。」



大人孝一「あーこれは大人の意見として言わせてもらうが・・・昔の俺もお前にそっくりだった。毎日毎日壁をひたすら殴ってた。・・・だがそれが何になる?もっと他のことに時間を使った方がいい。」



孝一「・・・」
大人孝一「いい加減、高校生ぐらいなんだから・・・ヒーロー気取りの子供みたいな真似は止めろ」



孝一「・・・」
大人孝一「・・・」



孝一「ヒーロー?・・・俺は『殴りたい壁』を 横取り する奴を許せないだけなんだが・・・」

ごめん、人助けとか考えてなかった・・・


大人孝一「そっちかよ!」






孝一「いいから・・・黙ってみてればいい・・・ニセモノ」





くっ・・・勝手にしろ
大人孝一は孝一に背を向けた。