髭スライムと監査員 その2

髭スライムと監査員 その2




スライムは・・・





魔獣に対する研究が進んでいる現代においてなお、
謎が多く、雷の魔法が弱点という事以外何もわかっていない。





突如目の前に現れた喋るスライムにケーリーは驚いた。
(私の雷の魔法ならば・・・奴を倒せる・・・)

警戒する私に対して、
ソレは丁寧にお辞儀をしてゆっくりと言葉を紡いでいく。






・・・





「・・・というわけで、我らが国を救っていただいたウツロ殿への恩を返すため、親善大使としてこの私が遣わされた訳なのだが」


静かな彼の言葉・・・
話だけ聞けば、大げさで嘘っぽい・・・だが、その声色は真剣だった。



「おおよその経緯は察している・・・だから、そなたに『頼み』がある・・・」



真剣だ・・・
だからこそ、その先がわかる
やめろ・・・その先は・・・




「私の『命』と引き換えに、どうか、ウツロ殿と話していたことを内密にして頂きたい」




ケーリー「・・・」




『学業と仕事の場では嘘はつかない』
私は今までの人生でこのポリシーを破ったことがない。
それが私の誇りだった。


どんなに下らなく馬鹿げたことにさえ、妥協や嘘を許してはならない。
そうでなければならない。
事実に対して・・・正しくあらねばならない。

魔力の低い私は・・・



目の奥が・・・すごく・・・すごく熱かった。





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正面に監査官がケーリーに質問をおこなう。


「ウツロ=ハイイロがスライムのスパイであるという容疑について、街で目撃者を探したが、有力な手掛かりは見つけることが出来なかった」

「ケーリー=エクセル、この件について支部側からの証言はあるか?」



心臓の音が聞こえる。
ガラにもなく緊張しているのだろうか、
えーいミラ、その泣きそうな顔をやめなさい



私はゆっくりと言葉を吐く。




「そのような事実は、ありません」




静まり返る室内・・・




「・・・そうか、では次の案件だが」




ケーリー「・・・」

あっさり流すのかよ
私の精神的葛藤に費やした時間を返して欲しい。





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次の日、支部の玄関先に『茶葉』が包まれて置いてあった。
『かたじけない』というメッセージが添えられて
おお、この茶葉は珍しい高級品でめったに手に入らないはず・・・

詫びのつもりだろうか
義理堅いな・・・



魔獣からのワイロを受け取っていいものか?



魔法協会規則:魔獣討伐部の魔獣からの金品の受け取りや取引を禁ず



つまり、
経理の私が受け取るのはOKかな



お湯を注いだ茶葉の良い香りがあたりに広がる。
私は・・・頭の中を駆け巡る色々を・・・ひとまず隅に置いておくことにした。








「ウツロ殿に恩を返すために馳せ参じたにもかかわらず、ウツロ殿に迷惑をかけてしまうなど・・・言語道断」


紅茶美味しかった。


その積み重ねの先に理路整然とした整った世界があるのだから・・・





そういえば・・・
子供の頃に『人語を話すスライムと友達になるなどという内容の絵本』を買ってもらったことがあったっけ・・・あまりに馬鹿げているし、教育に良くないということで絶版になったらしいが