オリジナル小説

オリジナル小説



キロとアーシェは1度だけ手合せしたことがある。
カルデラの城の宝物庫の警備をしていたキロからアーシェが宝物庫から白い剣を盗み出したときのことだった
勝負の結果はキロの惨敗、
声を上げる暇もなく、神速のごとき剣術でキロはのされてしまったのだった。



キロの剣術の腕は同じ代でも上位だった。
ただ、この時代においては、剣術よりも勉学や人当りが評価されることが惜しまれた。



アーシェの剣術の腕については、兵士長から何度も聞かされていた。
彼女は女の身でありながら、剣術をはじめて3年足らずで城の剣術大会で優勝したそうだ。
まごうことなき天才
ロズワード軍の反乱をほぼひとりで沈めた怪物




キロとアーシェは斬り合った。
鳴り響くけたたましい金属音
アーシェ(信じられない・・・私の剣に反応している・・・宝物庫のときとは別人・・・)



私はお父さんに喜んで欲しかった・・・
私が幼いころ病弱でいつも寝込んでいた時も
いつもさびしい思いをさせないようにしてくれていたし
高い薬も買ってきてくれた。
お父さんに恩返しがしたくて
カルデラ軍に入隊して頑張った。
お父さんを王様に頼んで将軍にまで出世させてもらった。
お父さんは喜んでくれるはずだった。


でも、お父さんは、軍なんて危険な仕事はやめてくれと心配ばかり
私がモールスに封印されたとき、死んだと思い込んで・・・
私は恩返しするどころか
お父さんを苦しめていたんだ。
ひどい娘だ。
最終的に、お父さんを追い詰めて殺したのは・・・わたしだ。
私はどうなってもいい、どうかお父さんを助けて




一瞬キロの態勢が悪くなった隙をアーシェは見逃さなかった。
キロの腹にぐさりと剣を突き刺した。
キロのお腹から血が噴き出した。

腹から血が噴き出した。信じられないくらい痛いし、力が抜けていきそうだった。
ダメだ、やっぱり勝てない、




アーシェは冷徹にキロの肩を剣で貫いた。キロは倒れた。
アーシェは首筋に痛みが走るのを感じた。
アーシェ(・・・傷?)
アーシェの首にキロの剣が浅く傷をつけたようだった。
傷口から魔力が漏れ出して、キロの白い剣に吸収されていった。



アーシェ(・・・魔力をもっていかれたか、・・・もう一度心臓を取り出して・・・いや、確実な方法は・・・キロを殺してしまうことだ。)


アーシェは倒れているキロに向かって剣を突き立てようとした。
しかし、苦しんでいるキロを見て手が止まった。
手が震えている。



彼だけは助けてあげようと誓ったのに・・・私は自分の手で彼を殺すのか?




父を救いたい、けれど、時間を巻き戻して誰かの存在を消したくない。
アーシェの目から零れ落ちたたくさんの涙がキロの顔に当たった。


ねぇ・・・わたし・・・どうすればいい?・・・キロ



アーシェの首筋から漏れ出した魔力は止まることなくキロの心臓に吸収されていった。



使い魔が恐る恐るアーシェに近づいてきた。
使い魔「キロさんがもしかしたらと言っていたことなんですが・・・」



キロは孤児院にいたころの夢をみた。
孤児院の庭に落書きだらけの銅像が立っていた。
キロ「マクセル様?これは誰の像なの?」


「ああ、これは、100年前にこの孤児院を始めた人物の像だそうだ。
なんでも死んだ娘さんを悼んで、カルデラの将軍の地位を捨ててまで孤児院を始めたそうだ。
王が激怒して、彼を自殺扱いにしたそうだけどね
そんなことを全く気にせず
不幸にしてしまった娘のために、その何倍もの子供たちを幸せにするんだと言っていたそうだよ
ほら、読めるかい?彼の名前は・・・」



ヘルツ=グラフェン





ジーメスの村の孤児院の創設者の像にはこう書かれていた。

『我が愛する娘アーシェへ
私の存在がお前を苦しめてしまっていたのかもしれない
私はお前がどこかで生きていると信じている
そして、私という重荷から解放されたお前は
とても自由に幸せに暮らしていることだろう。
私もお前に囚われることなく、自分の道を進んでいこうと思う
いつかお前が帰ってきてくれた時のためにこの石碑を残す
ヘルツ=グラフェン


「・・・・自分のことを重荷だなんて・・・本当に・・お父さんは・・・」


子供「どうしたの、マクセル様?」
マクセル「いや、今、銅像の前に誰かいた気がしたが、・・・気のせいかな?」




$$$




キロは気が付いた。
キロ「・・・」
使い魔「キロさん気が付きましたか。」


刺された腹に傷はなく
キロの手には白い剣がしっかりと握られていた。
道行く人に尋ねた今日の日付はキロの処刑日から1日後だった。
時間は巻き戻っていないようだ。
キロ「アーシェは・・・」
また、誰かを不幸にしてしまった。
そんな罪悪感がキロの中に残った。
誰も救えない。誰の役にも立てない。自分は世界に必要とされない人間なのだと嫌でも考えてしまう。


キロは皇太子の妃を殺した罪人になっていることだろう・・・
キロはカルデラの城を背に歩き始めた。
もうこの国にキロの居場所はないのだ。





キロ「なんでついてくるんだよ、自由になったんだろ?」
使い魔「個人的な興味ですよ、あなたについていくとしばらく退屈しなさそうなので」
キロ「・・・・あっそ」




キロと使い魔は西へ旅立つ。
少し後ろから二人を追う影がひとつ、それは銀色の髪の少女だった。