新キロと13匹の悪魔

新キロと13匹の悪魔




100年前、インバース地方より

少年グラムは真夜中にひとりある組織のアジトに潜入しようとしていた。
(おかしいな、真夜中とはいえ見張りがひとりもいないなんて・・・)


彼は暗殺集団の里の出身で依頼を受けて動いていた。
今日のターゲットは最近勢力を伸ばしているという悪魔宗教団の教祖である名前は『アルマダート』という人物だった。


暗い廊下の先に灯りが見えた。
(女がひとり・・・あいつを拷問して教祖とやらの居場所を聞き出す。)


「?!・・・うああああ」

足首のロープが絡みついて彼は天井に宙づりになった。




アルマ「・・・いい夜だな、可愛いお客さんよ」




彼女は男のようにどしっとグラムの前に腰を下ろした。
グラム「・・・ちっ、暗殺する情報が漏れていたのか?」

アルマ「いや、それはちがうよ。」


グラム「あらかじめここに罠を仕掛けていたと・・・」
アルマ「普段生活する通路に自分がかかるかもしれない罠をはるわけがないだろう」


グラム「・・・・・」
アルマ「ははは、そう怖い顔をするな」


アルマ「どうして、お前を罠にはめることができたか・・・理由を教えよう。それは私には『未来を見通す能力』があるからだ。」
グラム「・・・嘘くさい。」



・・・・・・・・・・・・・・・


暗殺者の村から捨てられるグラム、アルマの部下になる。



アルマ「そなたに力を与えよう。」
「ありがとうございます。アルマダート様」



グラムはアルマが他者に悪魔の力を授ける儀式を見る。

グラム「・・・なんの儀式だ?」
アルマ「悪魔の力を与えていたのさ、お前にも授けてやろうか?」
グラム「やめておく」


アルマ「そう怖がるものじゃない。」
グラム「怖がってないんかいない」


聞かれてもいないのに理屈っぽい講演を始めるのは、アルマの癖だった。
その辺りは教祖の資質というものだろうか。

魔力というのは人々の願いや絶望が目に見えない流れになって世界を巡っているらしい。


アルマ「この熱いスープは時間がたつと周りの気温に合わせてぬるくなる。魔力も周りに拡散していく性質があるんだが、ある一定の条件がそろうと魔力はその場所に停滞してしまう。お金や財産なんかもそうだな、一定の貴族や商人にばかり集まってしまうことがあるだろ。集中しすぎると良いことはおこらない。」


アルマ「私の出身の村は魔力がたまりやすい条件を満たしてしまっていたらしい。村は最終的に真っ黒な空気に包まれて、全員骨になってしまった。その中で偶然生き残ったのが私だった。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・


グラムはアルマの部下になった。
アルマはグラムを実の弟のように可愛がった。


悪魔宗教は密教であった。
国軍に知られればどのような処罰も受けなければならない重罪だった。
それでも悪魔宗教に加入する者は後を絶たなかった。


アルマ「貴族や一部の商人が利益を独占して市政に不満がたまっているからな・・・民が私を頼るのはそのせいだ。」
アルマは犠牲者の知らせを聞くたびに顔を曇らせた。



グラム「・・・アルマ、どうしてこんなことをしてるんだよ。あんたに向いていることだなんてとても思わない。」


アルマ「・・・なんだ、慰めてくれるのか」

グラム「・・・あーそーだよ」


アルマ「・・・干渉しない・・・のが一番だったのかもしれない・・・ある家族が騎士団に殺される未来が見えて、その家族に力を与えた。それが始まりだった・・・だが、目に映る人を救うということさえ・・・これが難しい。私は皆に力を与えることを選択した。・・・・・・たとえ自分がどうなろうとも」


グラム「・・・そこは安心しろよ。俺が護衛している限りあんたは死なない。・・・絶対に」

アルマ「・・・ふふ・・・それは頼もしいな・・・」

グラム「からかうように言うなーー」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



悪魔宗教本部への進行
インバース軍とカルデラ軍の連合軍の圧倒的な武力で鎮圧される。


本部へは火が放たれる・・・


グラム「・・・アルマ!!やばい、こっちだ、早く逃げよう」

アルマ「・・・いや、私は残る」

グラム「何言ってるんだよ」

アルマ「私はインバースの城で処刑される・・・もうずいぶん前からそういう未来が見えていたんだ。・・・私の処刑で国の歴史が大きく動く、この国は誰もが明るく暮らせるいい国になる。そんな未来を私の命ひとつで作れるんだ。安いものじゃないか。」



グラム「・・・安いわけないだろ・・・俺は・・・俺はアルマに死んで欲しくないんだ。」



アルマ「・・・・・グラム・・・こっちへ来てくれ」
アルマがグラムを抱きしめる。アルマの手から黒い影があふれ出してグラムを包む・・・

グラム「・・・」

アルマ「・・・これは、私の『人を未来へ転送させる能力』だ。お前は私の代わりに幸せに生きて欲しい。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


何者かが扉を破って侵入してきた。
この世の者とは思えない銀髪の女騎士

アーシェ「・・・あなたが教祖アルマダートね・・・」

アルマ「お初にお目にかかる君がかの有名な神剣アーシェ卿か、女性ながらにカルデラ騎士のエースを務めるとは見事だ。」

アーシェ「お褒めにあずかり光栄ね・・・あなたも女性なのにこの規模の組織のリーダーだなんて感服するわ」



部屋のあたりにまで火の手が回ってきた。

アーシェ「火をつけたのはインバース軍側よ。全く気分のいい仕事じゃないわ。彼らはあなたたちを存在ごと抹消したいみたい。カルデラ軍はただの制圧を提案していたんだけどね・・・」

アルマ「・・・そうか」

アーシェ「このままインバース軍のいいなりも面白くない・・・あなたを見逃して、安全な場所まで逃がしてあげましょうか?」


アルマ「・・・・ふふふあはははは・・・君は本当にあの冷徹な神剣アーシェなのか?面白い・・・初対面ながら私は君のことがとても気に入ったよ。君にならば安心して私の願いを頼めそうだ。」


アーシェ「?」


アルマ「途中殺されることなく、私をインバース軍に引き渡して欲しい。」


アーシェ「・・・・」


アルマ「そんなことをすれば確実に処刑されるだろう・・・だが、私にはそれでもやり遂げなければならない使命がある、叶えたい未来があるんだ。」


アーシェ「・・・・」


アルマ「・・・どうか頼む。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ファナ「お前・・・いきなり敵の本陣につっこんで・・・大丈夫かよ」
アーシェ「ええ、問題ないわ、」

直属騎士「あの・・・そちらの女性は?」

ファナ「アルマダート?!お前なんてものを拾ってくるんだよ。元あった場所に返して来い」

アルマ「私は捨て猫か何かか・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


アルマ「100年後のインバースの首都は『ハインベルン』という名前に変わる。それはそれは立派な都市に生まれ変わるんだが、そのときはぜひ満喫してくれ。」


ファナ「流石にあたしら生きてないし・・・アーシェはわからないな・・・化け物だし」

アーシェ「・・・なんですって」



ファナ「じゃあさ、アルマさん・・・アーシェに彼氏ができるか占ってくれよ。もう親父さんからはそのことばっかり言われてさー」

アーシェ「・・・・私は生涯独身だから」


アルマ「・・・・うーん、君の夫は君のことでずいぶん苦労するみたいだな・・・」

ファナ「・・・あーやっぱりか」
アーシェ(何その反応)

アルマ「だが、アーシェは夫の前だとずいぶん可愛らしい嫁になる未来が見えるな」
ファナ「だははははは、想像できねぇ」


直属騎士団「・・・・ぷぷ」
周りの全員が笑いを必死でこらえていた。