ウツロ 詐欺師の交渉術


【行商人編】詐欺師の交渉術





いい商売人は・・・
どんな交渉をしている時も『感情を顔に出してはいけない』
これもカルロの口癖だった。
そういえばカルロの弱り顔なんてめったに見たことがなかった気がする。


いや・・・



あのとき・・・
行商団の品物を安く買いたたかれそうになった・・・
あのときは・・・流石に顔が青くなっていただろうか・・・





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「これ以上のお金は出せない・・・」





エルフの貴族のお坊ちゃんは・・・そう冷たく告げる・・・

今日は、エルフ国の辺境領主に品物を納入する日だった。
領主はこの時期街へ品物の買い付けにやってくる。
クラスティア王国から仕入れた珍しい品を高く買ってもらうはずだった・・・


その価格は相場と比べても明らかに安すぎた。
だが、彼らは貴族だ・・・今準備もなしに攻撃的な交渉をするのもリスキーだ・・・



「こんなガラクタ・・・お金を出すだけで有難いと思うんだな・・・下賤な人間風情が・・・」



今日の商売相手はいつもの領主のエルフの貴族ではなく、その息子のようだった。
ウツロより一回り小さい彼は冷たい口調で言い放つ。


カルロ(まずい・・・ここでさばけないと色々予定が狂う・・・せっかく親方から全部任された仕事なのに・・・)



ウツロはその状況を後ろで見ていた・・・
表情には出さないが・・・カルロが困っている・・・ひしひしと感じた。

キョロキョロとあたりを見回す・・・



ふと・・・



後ろに レーベル婆さん がいるのが目に入る・・・
俺の顔を見るや・・・レーベルは、にやりと笑い、
「ワシに任せろ」と言わんばかりの顔で親指を立て、こちらへずんずんやってくる・・・


え・・・おいおい・・・






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「お主・・・レベルが低いのぉ」






取引先のお客様に言い放つ第一声だった・・・
あまりの突然の声に周囲はシーンと静まりかえる・・・


レーベル「そこのエルフの小童・・・お主に言ったんじゃよ?・・・レベルが低いと」


その悪意が自分に向けられたものと知り、
エルフの貴族の子供は激昂する。



「僕がレベルが低いだと?・・・人間風情に高貴なエルフのことが、わかるわけがない」



「ワシは由緒正しきレベルアップ祈祷師じゃ・・・ワシにかかればどんな存在であろうと・・・その人物の本質が見える・・・見えるんじゃよ。」



「僕は!!・・・僕は!!!・・・誇り高きエルフだ・・・魔力もずっと高いし、魔法だって一流の家庭教師に習っている・・・どうだ、レベルが低い要素なんてどこにもないんだよ!!」




「何のレベルが低いか・・・それは・・・お主が一番・・・よくわかっておるじゃろう?・・・今この場の大勢の前で発表してしまっても良いが・・・それもいささか忍びない・・・そう思うのじゃが?」




「・・・」
エルフの表情に焦りが見える。
何か思い当たる節があるのだろう・・・

カルロ「・・・あの・・・お婆さん・・・その辺で・・・」
カルロが止めようとしたが、レーベルさんは構わず続ける。






「もし・・・レベルが高いと証明するならば!!・・・そうじゃな手始めに・・・この商人たちに『豪気な様』を見せつけてみよ・・・まさか・・・みみっちく値切ったりなど・・・しておらんよなぁ?」






ぐぬぬぬ・・・言わせておけば・・・いいだろう・・・おい商人、さっきの言い値で買ってやる・・・さっさと契約書を寄こせ!!」



こうして・・・
交渉は一転、大成功となった。


後に聞いた話であるが、
このエルフのお坊ちゃんは父親に商売を任され、今日が初めての交渉だったので鼻息が荒くなっていたとのこと・・・取引先の諸事情とはいえ、なんとも迷惑な話だった・・・






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カルロ「お婆さん・・・ありがとう・・・本当にありがとう」



レーベルに抱き付く、カルロ・・・
カルロとしてもあの状況はいっぱいいっぱいだったんだろう・・・



カルロ「この程度、なんてことはないわい・・・小僧が子犬のような目で助けを乞うもんじゃから・・・ふふふ・・・助けに入ったまでじゃ」


子犬の目なんてしてないし・・・


カルロ「ウツロもありがとね」
ウツロの頭を撫でるカルロ・・・
なんとも釈然としない・・・



まったく・・・
あんな無茶苦茶な方法で取引をまとめてしまうなんて・・・
流石、詐欺師といったところなんだろうか


正確に心の隙を突いてくる・・・その交渉術に恐怖すら感じた・・・
自分も心の隙を突かれないように注意しないとな・・・



詐欺師怖い・・・詐欺師怖い・・・









「黙るふぉい」


領主はこの時期、色々な品物を買い付けるために街に滞在しているらしい。