『はたく』

『はたく』



ただ、教えを乞う。
ただそれだけのことが多感な男子中学生には難しかったりするのだ。



加えて、孝一は壁を殴ることを秘匿することに何かしらの優越感を持っているようでそのあたりも事をややこしくしている原因だった。




「まず、聞いたところで、『はあ?お前何言ってんの?』みたいに返されるのがオチだと思うんだが。」



壁殴りを始めてもう何年か経過している。流石に孝一にも焦りが出てきた。




孝一は数学の成績があまり良くなかった。


先生「水上は、帰宅部だろうに・・・」

孝一「つまり、暇だから勉強しろと言いたいんですね・・・」

先生「よくわかっているじゃないか」




孝一「俺は・・・『はたく』を完成させるのに忙しい。」

先生「はたく?・・・あー、いつも壁の前で何かしているアレか」




そして、誰もがこう言う 「その行為に意味があるのか」と




孝一「あれは、練習というか、まだ何も掴めていない状態だから・・・」


先生「・・・」


先生「・・・まだ、できていないことを恥じる事はない。お前たち生徒はまだまだ発展途上なんだから・・・」



予想もしない返答が返ってきた。


孝一にとって大人は何でも知っている存在だ。たとえインターネットに載っていないことであっても、大人である先生ならば知っているかもしれない。



孝一「先生、先生は大人なので、『はたく』について何か知っているんじゃないですか・・・」

先生(ここで無下にするのもなぁ・・・)

先生「確かに先生は、お前のそれについて知らない。だが、知ってそうな大人を紹介することはできる。」

孝一「・・・マジですか」
孝一の眼が輝きだした。


先生「その人物を紹介してやってもいいが・・・そこまでやる義理も義務もないしなぁ」

孝一「わかりました。次の数学のテストで100点を取ります。」


先生「おー言うねぇ、交渉成立だ。期待しているぜ。」