手を焼かされた子の思い出
その頃ミレスは・・・
ミレスの決意
私の名前はメルビア=バトスだ。
孤児で行き場のなかった私はアクアローナ様に拾われ、現在まで彼女のお世話をしている。
彼女はよく不遇な子供を見つけては保護している。
私に言わせれば、それは『捨てられた猫を拾ってくる子供のようなおこない』なのだが、
それでも彼女の意志は揺るぎない。
ラグベール崩壊直後
10年ぐらい前だったか・・・彼女が連れてきた『その子』にはとても手を焼かされたな・・・
大けがをして連れて来られたその子の名前は『ミレス』と言った。
メルビ「この子・・・多属性ミレスじゃないですか・・・」
この子はラグベール王国とクラスティア王国の国境付近で見かけたことがある。
王直属の魔女の中でも特に戦闘力が高い要注意人物だと報告も上がってますし・・・
アクア「まぁ・・・こんなに可愛らしいのに・・・」
この人は・・・
可愛らしさ関係ないんだよ!
この子敵国のエースですよ?
こんな危険人物をアクアローナ様の傍に置いておくなんて危険です・・・もしものことがあったらどうするんですか・・・
本当に不気味だ、この感情のないゴーレムのような娘は何を考えているかわからない・・
今日も遅い夕食を準備していると事件は起こった。
ドン
凄まじい轟音と共にミレスの部屋に行くと彼女はそこかしこに魔法を放ち、貸し与えていた部屋の壁に大穴を開けていた。
メルビ「ついに尻尾を出しやがりましたよ。スパイですね、スパイ決定です!」
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アクア「・・・これは危険な状態だわ・・・」
アクアローナ様の魔法の解析によるとミレスの感情を制御する首飾りの魔法式が壊れかかっているとのこと。時々漏れ出る感情を制御できず、魔法を暴発させる。
このままでは命に係わる障害を引き起こしかねない・・・しかし、外そうにも体に根を深く入り込んでいるので容易に取り外せなかった。
こんな子供に・・・なんてひどいことを・・・
アクアローナ様は眉をひそめる。
ミレス「・・・・私を・・・コロしてしまえば・・・いい・・・」
既に彼女の声にノイズがかかって一層ゴーレムじみていた。
アクア「ミレス・・・2択よ・・・選びなさい。」
このまま首飾りを外さずに死を迎えるか、それとも一か八か賭けにでて首飾りを外すか。
アクア「どうする?」
真剣にミレスのことを考えるアクアローナに対してバツが悪いメルビアだった・・・
ああ・・・少し空気を読めていなかったですね。
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ミレスは夜空を見上げる。
綺麗な月が噴水と透明な池を照らし、周囲の淡く光るランプ花も色を添える。
ここは魔法の国クラスティアの魔法協会本部、水の七賢人の別塔だ。
もし私に感情があればこんな素晴らしい風景に息を飲んでいたんだろうな・・・
首飾りを外さなくてもあと1年は生きられるそうだ・・・
ラグベール城で骸骨の魔術師に殺されかけて・・・
今生きていることが奇跡だ・・・
生きることに未練なんてない。
むしろ・・・どうしてまだ生きているんだろう・・・
彼に助けられたからだ・・・
あと1年生きられるならば・・・旅に出て・・・彼を探して・・・
最後にお礼を言うのも悪くないかもしれない・・・
もし・・・もし仮に・・・
無事に首飾りを外すことが出来れば・・・私は感情を取り戻す・・・
今更感情を取り戻したところで・・・何が変わるというのだろう・・・
ウトウトと眠りに落ちる・・・
そういえば昔こんなことがあったな・・・
ラグベール城西塔にて
ウツロはミレスに今日も夕食を運ぶ。
今日の彼は目に見えて嬉しそうだった。
ウツロ「今日・・・王妃様に・・・笑いかけられてさ・・・」
現ラグベール王の王妃は大層容姿端麗でお優しい方だと聞いたな
ミレス「多分・・・後ろに・・・誰か別のひとがいたのでは?」
ウツロ「そういう事言うのやめろ」
笑う・・・か・・・笑うと・・・嬉しいのかな・・・
ミレスもぎこちないながら笑ってみることにした・・・
ウツロ「どうした?顔が引きつってるぞ?」
ミレス「・・・」
目を覚ます・・・
変な夢を見たな・・・つい最近の事だった気がするけど
もう大昔の事の様に感じる。
『どうした?顔が引きつってるぞ?』
ミレス「・・・」
私は・・・
・・
・・・
私は首飾りを外して欲しいと頼むことにした。
彼女は・・・とても年相応には見えず、落ち着いていた。いや生気がないと言い換えても良いかもしれない・・・それはあたかも感情のないゴーレムのようだった。
メルビ「ミレス?・・・この子・・・多属性ミレスですか?・・・」
私はこの子に見覚えがあった。
非公式ではあるが、ラグベールとクラスティアの国境付近で何度か交戦したことがある。