ウツロ 魔力が欲しい

冬支度




魔力も少ないのに工夫で頑張っていると言われるのが嫌いだ。
工夫で何とかなるなんて思いたくない。
魔力はあればあるだけいい。


剣神ガルフェンはこう言った。



いい剣士の第一条件は何か?



ガルフェン「それは・・・魔力が多いことではありません。」
おお・・・魔力5のウツロは、その言葉にちょっと安堵した。


剣神ガルフェンはさらに続ける。
「・・・腕力があることでも、いい装備を持っていることでも・・・まして、工夫が優れていることでもありません・・・」
ええ・・・その言葉にウツロは少し落胆した。


では、その条件は何か?


「それは『剣士である』という意識を持っていることだと・・・私は考えています。」


・・・意味が全く分からない。

ああ、皆すごく良い話を聞いたみたいな雰囲気を出していたが、ウツロは心に響かなかった。
このセリフ、剣神ガルフェン以外が言ったら、乾いた笑いしか起こらないんだろうな・・・



ウツロは目を覚ます。
嫌な夢だった。・・・いい夢を見るまで寝なおしたい・・・




$$$




この時期のミストクラノスは朝、肌寒い。
ミストクラノスというだけあってこの街は霧が多く、今朝も真っ白な霧に覆われている。
ウツロの部屋にも白いモヤが見えた。ああ、隙間風が目に見える形で侵入してきている。
この欠陥住宅っぷり・・・お金があったらもっといい部屋に住みたい。



寒い・・・寒い・・・寒い・・・布団から出たくない・・・



布団から出ること・・・それは・・・どんな魔獣よりも手ごわい戦闘である。



何のために・・・布団から出るのか・・・今日も働くためだ・・・何のために働くのか?・・・



ウツロの手がガタガタ震える。
駄目だ・・・働く意義を見出せない・・・


(そうだ・・・少しぐらい遅刻しても・・・また『いつものことか』と思ってもらえる・・・それでいいのか俺・・・)


まあ・・・いいか・・・
ウツロは睡魔に屈することにし・・・



あ、そういえば、
居酒屋のキョウカさんからもらったお惣菜・・・まだ残ってたな・・・朝ご飯にするか・・・



ウツロは飛び起きた。




$$$




ウツロは一旦北支部に顔を出す。
久々だ・・・
皆が『ウツロが定時出社するなんて・・・どうしたんだ?』って顔しているが気にしない。



業務時間・・・
費用処理の書類を作成する。
いつもケーリ―さんから ダメ出し される部分をまとめた『反省リスト』を見ながら最終確認する。
よし・・・今回は大丈夫だろう・・・



ケーリ―さんに提出・・・
相変わらずゴミを見る目でウツロとその書類に目を通す。少しでもダメな部分があれば嚙みついてやろうという気満々の目だった。流石、北支部きっての鬼経理


ケーリ―「・・・いいでしょう。拝受します。」



ケーリ―は書類を置いて、引き出しから何か取り出す。
ケーリ―「・・・それから、防寒用にショールを手配しておきましたので、使ってください。」


ウツロ「・・・ええ」
確か去年、配布期間を逃したから、もらえなくてそのままだったな・・・
おお、わざわざ俺のために手配してくれた?のか・・・なんか照れるな・・・


ケーリ―「去年のように風邪で休まれると、北支部の実績が下がりますからね・・・」


心では笑っていないような営業スマイルを向けるケーリ―さん
そうですね・・・実績が下がりますね・・・




$$$




門の外を目指して街を歩く。
白い霧と背後にそびえる黒い山脈・・・世界全体が灰色に見えた。

今日の霧も・・・晴れる見込みがなさそうだ・・・


さて、今日の任務は何だったかな・・・ウツロはエレノールさんからのメッセージを確認すべく魔法の書を開く。





このセリフ、剣神ガルフェン以外が言ったら、乾いた笑いしか起こらないんだろうな・







朝礼、支部長の話・・・
うん、支部に居ないので話の前後関係がわからないが、とりあえず理解したような顔をしておく。