【過去編】初めての魔法
・・・・・ぷぷぷ
ジレンはウツロの両手を持って魔力を流し込む。
【魔力臓器とパイプ】
人間だれしも心臓の横に魔力を生み出す『魔力臓器』を持っている。魔力臓器から手までは魔力伝送のための『パイプ』があって、一般人のパイプは収縮しているので、魔力を通さない。魔法使いの初級の修行では他の魔法使いから魔力を供給してもらい、パイプを拡張して魔力の供給を促すところから始まる。
ウツロ「・・・なんかすごい痛い」
ジレン「我慢しろ・・・あんまり時間をかけすぎても良くないらしいからな」
ウツロとジレンは毎朝、早い時間に魔法の練習をすることにした。
早朝に起きることが出来るなんて、ウツロの人生の中でこの時だけだった気がする。
ジレン「よし、次の段階へ進むぞ。」
ジレンはナイフを引き抜いて、刃を横に向ける。
魔力臓器から手に流れてきた魔力をナイフの刃に伝わせろ・・・魔力の伝わったナイフを・・・対象に向けて振ると・・・
ジレンがひゅんとナイフを振ると少し離れた木の葉っぱがすぱッと切れて木の葉が落ちる。
ウツロ「おお」
ジレン「・・・とまあ、これが魔法協会剣士の一般的な魔法『風切り』だ・・・」
ウツロも真似をしてやってみる。
すかっ
葉は落ちてこなかった・・・
ウツロ「・・・なんか出た・・・なんか出たよ・・・すごい・・・すごい」
ジレン(おい・・・切れてないぞ・・・)
・・・うーん、この切れ味・・・魔力も薄いし・・・こいつ本当に才能がないな
・・・まあ、喜んでるし・・・水をささないでおくか・・・
ウツロ「・・・」
ウツロ「・・・じゃあ・・・俺は仕事に行くから・・・」
ジレンの方を向かずにゆっくりととウツロは去っていく
ジレン「・・・」
ジレンは人気のない方向へ向かうウツロをこっそりと追いかける。
ジレン(数日間、こいつを観察したが・・・おそらく、こいつに仲間はいない・・・たぶん城で孤立している・・・ぼっちだ・・・ここで、こいつを殺してしまえば・・・証拠は残らない・・・)
ウツロは建物の陰でうずくまっていた・・・
チャンスだ・・・
・・・ひっく・・・ひっく・・・
ジレンはウツロが陰でボロボロと涙をこぼしていることに気づいた。
ジレン「・・・」
ジレンは剣の柄から手を離す。
ああ、俺も甘いなぁ・・・
$$$
夕刻、ミレスに夕食を持っていく。
ウツロ「ミレス・・・俺も魔法を覚えたんだぜ?」
ナイフを取り出して魔法を放つ。
風切り!
かすかにふわっと風が起こっただろうか・・・
ウツロ「・・・どうだ、すごいだろ」
普段は見れないような自慢げなウツロ
ミレス「・・・」
ミレス「・・・」
ウツロ「・・・」
ミレス「・・・・・ぷぷぷ」
ウツロ「お前・・・今・・・笑ったか?・・・」
かなり小馬鹿にするように・・・
ミレス「・・・」
ミレス「・・・おかしい、首飾りの効力で感情は無くなったはずなのに・・・あなたのあまりの可愛らしさに・・・自然と笑みがこぼれてしまったということなんだろうか・・・」
真面目にびっくりしているミレスがどうにも腹立たしかった。